会社の赤字(欠損金)は、ただの損失ではありません。青色申告法人なら、欠損金を翌期以降10年間繰り越し、将来の黒字(所得)と相殺できます。実効税率約30%で考えれば、**欠損金1,000万円は「将来の税金を約300万円減らすクーポン」**です。
ただし、このクーポンには有効化の条件があります。①欠損が出た年度に青色申告をしていること、②その後も毎年連続して申告書を提出し続けること、③帳簿書類を保存していること——どれか一つでも欠けると、権利ごと消えます。本記事では、制度の正確なルールと、実務で起きる「欠損金を失う事故」を解説します。
制度の基本:赤字と黒字を通算する仕組み
法人税は事業年度ごとに計算するのが原則ですが、それでは「初年度▲1,000万円・2年目+1,000万円」の会社が、通算ゼロなのに2年目に税金を払うことになります。この不合理を調整するのが欠損金の繰越控除です。
当期の所得 − 繰越欠損金(古い年度から順に控除) = 課税される所得
繰越期間は10年
2018年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は10年間繰り越せます(それより前に生じた分は9年)。10年を過ぎた欠損金は切り捨てられ、二度と使えません。
中小法人は所得の100%まで控除できる
- 中小法人等(資本金1億円以下など): その期の所得の**100%**まで控除可。黒字1,000万円・繰越欠損金1,500万円なら、課税所得ゼロにできます(残り500万円は翌期へ)
- 大法人: 控除はその期の所得の**50%**までに制限されます
中小企業にとっては「黒字になっても、欠損金がある限り法人税はゼロ」が素直に成立します(住民税の均等割は別途かかります)。
繰越控除を受けるための3要件
要件1:欠損金が生じた事業年度に「青色申告」
欠損が出た年度に青色申告書を提出していることが大前提です。白色申告の年度の欠損金は、原則として繰り越せません(災害損失金など限定的な例外を除く)。
要件2:その後、連続して確定申告書を提出
欠損発生後の各事業年度について、連続して確定申告書を提出している必要があります。「赤字だし売上もないから申告しなかった」という休眠状態の未申告が1年挟まるだけで、それ以前の欠損金の繰越が切れます。休眠会社こそ、毎年の申告を欠かしてはいけません。
要件3:帳簿書類の保存
欠損金の生じた事業年度の帳簿書類を保存していること。10年前の欠損金を使うには、10年前の帳簿が要る——保存期間のルール(帳簿書類は最長10年保存)はこのためでもあります。
控除の順序と別表七(一)
複数年度の欠損金がある場合、最も古い年度の欠損金から順に控除します(10年の期限が先に来るものから消費する設計です)。この管理を行うのが**別表七(一)**で、年度ごとの欠損金の発生・控除・残高を一覧管理します。
| 発生年度 | 発生額 | 既控除額 | 当期控除 | 翌期繰越 |
|---|---|---|---|---|
| 2020年3月期 | 800万円 | 500万円 | 300万円 | 0円 |
| 2023年3月期 | 600万円 | 0円 | 200万円 | 400万円 |
このような形で、**「どの年度の欠損金が、いつ期限切れになるか」**を常に把握しておくことが、後述の使い切り戦略の前提になります。
数値例:欠損金がある会社の3年間
設立期に▲1,200万円の欠損を出し、その後黒字化した中小法人の推移を追います(実効税率約30%・均等割7万円は別途)。
| 年度 | 当期の所得 | 欠損金の控除 | 課税所得 | 法人税等(概算) | 欠損金残高 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1期 | ▲1,200万円 | — | 0 | 均等割のみ | 1,200万円 |
| 第2期 | +500万円 | ▲500万円 | 0 | 均等割のみ | 700万円 |
| 第3期 | +900万円 | ▲700万円 | 200万円 | 約45万円 | 0円 |
3年間の通算所得200万円に対してだけ課税され、トータルで約360万円の税負担が回避できています。創業期に先行投資で赤字を掘る戦略は、この繰越控除があるからこそ財務的に成立します。逆に言えば、第1期に青色申告の承認申請(設立から3か月以内)を出し損ねていたら、この1,200万円のクーポンは最初から存在しませんでした。設立直後の届出の重さが分かる数字です。
もう一つの選択肢:欠損金の繰戻し還付
中小企業には、欠損金を翌期以降に繰り越すのではなく、前期に繰り戻して前期に納めた法人税の還付を受ける制度(欠損金の繰戻し還付)もあります。
- 対象: 資本金1億円以下の中小企業者等
- 前期が黒字で法人税を納付し、当期が欠損の場合に、当期の欠損金×前期の税率分が還付されます
- 「将来の節税」より「いまの現金」が欲しい局面(業績悪化時)で強力です
- 還付請求をすると税務署の調査(机上または実地)が行われることがありますが、適正な申告であれば過度に恐れる必要はありません
繰越か繰戻しかは、資金繰りの逼迫度と、翌期以降の黒字見込みで選びます。
税理士からのひとこと(監査目線):欠損金まわりで実際に見てきた事故は3つです。①休眠中の申告サボり——再開後に黒字化したのに、未申告の1年が挟まって繰越が切れていた。②期限切れの放置——10年目の欠損金が残っているのに、決算対策(共済前納など)で所得を圧縮してしまい、欠損金を使い切れないまま失効させた。期限の近い欠損金がある年は、損金を増やす対策ではなく「あえて所得を出して欠損金で消す」のが正解です。③M&A前提の誤解——「赤字会社を買えば欠損金が使える」という単純な期待。組織再編・買収による欠損金の利用には支配関係5年などの厳格な制限があり、節税目的の欠損金買いは原則封じられています。欠損金は「自社で発生させ、自社の黒字で使う」のが基本と考えてください。
欠損金と融資の関係:見せ方の注意
欠損金は税務上の資産ですが、**金融機関から見れば「過去に大きな赤字を出した履歴」**でもあります。融資の場面では次の整理が有効です。
- 欠損の原因(先行投資か、構造的な赤字か)と解消の道筋を説明資料にする
- 繰越控除で法人税がゼロの期は、「税引後利益が大きく見える」ため、税負担が平常化した後の実力値を併記して示す
- 債務超過に近い場合は、役員借入金の資本性の説明や経営改善計画とセットで臨む
「欠損金があるから税金は当面ゼロ」という事実は資金繰りの追い風ですが、その追い風の間に自己資本を回復させることが、融資枠の維持・拡大には不可欠です。
欠損金を最大限活かす実務戦略
- 期限管理表をつくる: 別表七(一)をもとに、年度別の残高と失効年を1枚にして毎期更新する
- 失効が近い年は「所得を出す」: 含み益資産の売却、共済の解約(益金)などを失効前の期に当て、欠損金で相殺しながら現金化・整理を進める
- 役員報酬との調整: 多額の欠損金がある期間は、法人側の損金(役員報酬)の節税価値が低い状態です。報酬を抑えて法人で黒字を出し欠損金を消化する設計も、個人側の税・社保とのバランス次第で有効です
- 赤字決算の年こそ期限内申告: 欠損金の価値(約30%分の将来税額)を確定させる手続きが申告そのものです
よくある質問(FAQ)
Q. 欠損金があるのに税金の請求が来ました。なぜですか? A. 法人住民税の均等割(標準で年7万円)は所得と無関係にかかります。また、繰越控除をしても消費税・源泉所得税には影響しません。「欠損金で消えるのは法人税・地方法人税・住民税法人税割・事業税」と整理してください。
Q. 欠損発生年度は青色でしたが、その後白色になりました。繰越は使えますか? A. 欠損が生じた年度に青色申告をしていれば、その後の年度が白色でも、連続して申告書を提出している限り繰越控除は使えます。ただし白色では新たな年度の欠損金が繰り越せないため、青色の再承認を取るのが先決です。
Q. 繰越欠損金は決算書のどこに載っていますか? A. 決算書(会計)には直接は載りません。税務上の繰越欠損金は**申告書の別表七(一)**で管理されます。会計上の繰越利益剰余金のマイナスとは似て非なるものです(税務調整の分だけズレます)。
Q. 解散・廃業したら欠損金はどうなりますか? A. 清算中の事業年度では、残余財産がないと見込まれる場合に期限切れ欠損金も含めて使える特例があります。債務免除益が立つ清算では重要な論点のため、解散を検討する段階で必ず専門家にご相談ください。
Q. グループ会社間で欠損金を融通できますか? A. グループ通算制度を選択している場合は、通算グループ内での損益通算が可能です(加入前の欠損金の持ち込みには制限があります)。通算制度を使っていない単体納税の会社同士では、欠損金の融通はできません。
Q. 繰戻し還付と繰越控除はどちらが得ですか? A. 還付額と将来の控除額が同じなら「早くもらえる繰戻し」が時間価値で有利です。ただし繰戻しは前期1年分の税額が上限のため、欠損が大きい場合は「前期分は繰戻し・残りは繰越」の併用になります。翌期に確実な黒字が見えていて税率の高い階層で使えるなら、繰越が有利な場合もあります。
Q. 欠損金の繰越があると税務調査は来やすいですか? A. 欠損金の存在自体で調査確率が大きく変わるとは言えませんが、繰戻し還付の請求時には還付前の確認が行われ得ます。いずれにせよ、欠損金の計算根拠(発生年度の申告書・帳簿)を即提示できる状態が最善の備えです。
まとめ
- 青色申告法人の欠損金は10年間繰越でき、中小法人は**所得の100%**まで控除可。欠損金1,000万円は約300万円の節税クーポン
- 条件は「発生年度の青色申告・連続申告・帳簿保存」。休眠中の未申告1年で権利が切れる
- 控除は古い年度から。別表七(一)で失効年の管理表を持つ
- 業績悪化時は繰戻し還付(前期の法人税を取り戻す)も選択肢
- 失効が近い欠損金がある年は、損金を増やすのではなく「所得を出して使い切る」のが正解。M&Aでの欠損金利用は厳格に制限されている
欠損金の活用設計は Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、別表七(一)に基づく欠損金の期限管理表の作成、失効前の使い切り戦略(益金イベントの設計)、繰戻し還付の請求支援、休眠会社の申告継続まで、欠損金を「使い切る」ためのご支援をしています。「うちの欠損金、あといくら・いつまで使えるのか」——即答できる管理表を一緒に作りましょう。
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※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。繰越期間・控除限度・繰戻し還付の要件は税制改正により変わる場合があります。実際の適用にあたっては、必ず国税庁の最新情報をご確認いただくか、税理士にご相談ください。