貸倒損失・貸倒引当金【2026年版】回収できない売掛金を損金にする要件を税理士が解説

回収できなくなった売掛金や貸付金は、一定の要件を満たせば「貸倒損失」として損金にできます。さらに、まだ貸倒れていないが回収が危ぶまれる債権には「貸倒引当金」を計上して、見込みの損失を前倒しで損金にする方法もあります。

COLUMN法人税・決算実務

回収できなくなった売掛金や貸付金は、一定の要件を満たせば「貸倒損失」として損金にできます。さらに、まだ貸倒れていないが回収が危ぶまれる債権には「貸倒引当金」を計上して、見込みの損失を前倒しで損金にする方法もあります。

ただし、貸倒損失は「自分で勝手に『回収できない』と判断して損金にする」ことはできません。法人税法上の厳格な要件があり、これを満たさない損金処理は税務調査で否認されます。本記事では、貸倒損失の3つの要件と、貸倒引当金の仕組みを解説します。

貸倒損失:3つの要件

回収不能な債権を貸倒損失として損金にできるのは、次の3類型のいずれかに該当する場合だけです。

1. 法律上の貸倒れ(債権が法的に消滅)

債権そのものが法的に消滅した場合です。

  • 会社更生法・民事再生法・破産法等による切り捨て(更生計画・再生計画の認可決定等)
  • 債権者集会の協議決定、行政機関・金融機関のあっせんによる協議
  • 債務者の債務超過が相当期間継続し、回収できないことが明らかなため、書面で債務免除したとき

この類型は、債権が法的・書面上消滅するため、その事実が生じた事業年度に損金算入します。

2. 事実上の貸倒れ(全額回収不能が明らか)

債務者の資産状況・支払能力からみて、全額が回収できないことが明らかになった場合、その事実が発生した事業年度に貸倒損失として損金経理できます。

  • ポイントは「全額回収不能」であること。一部でも回収できるなら、この類型では損金にできない
  • 担保物がある場合は、それを処分した後でなければ損金にできない
  • 「明らか」かどうかは客観的な事実(債務者の財産状況の調査等)で判断

3. 形式上の貸倒れ(売掛債権の特例)

継続的な取引のあった売掛債権について、次のいずれかの場合、備忘価額(1円)を残して損金経理できます。

  • 取引停止後1年以上経過した(担保がない場合)
  • 同一地域の売掛債権の総額が取立費用に満たず、督促しても支払われない

この類型は「全額回収不能」までは求められず、売掛債権限定で使える実務的な特例です。ただし貸付金には使えず、また「1年以上」は取引停止・最後の弁済等のうち最も遅い時からカウントします。

貸倒引当金:見込みの損失を前倒し

貸倒損失が「実際に貸倒れた」ものを損金にするのに対し、貸倒引当金は「まだ貸倒れていないが、将来の貸倒れを見込んで」損金にする制度です。中小法人等が使えます。

  • 個別評価: 特定の債権(更生手続中・債務超過の相手など)について、回収不能見込み額を個別に引当て
  • 一括評価: 一般の売掛債権等の期末残高に、法定繰入率(または実績率)を掛けて一括で引当て

引当金は見込みで損金にできる代わりに、翌期に**戻し入れ(益金)**して再計算する仕組みです。実際に貸倒れたら貸倒損失に振り替えます。資本金1億円以下の中小法人等が対象で、大法人は原則使えません(一部の業種等を除く)。

税理士からのひとこと(監査目線):貸倒損失の相談で最も多い誤解は、「取引先が払ってくれないから、今期の損金にしたい」という安易な処理です。単に支払いが滞っているだけでは貸倒損失にできません。3類型のいずれか(法的消滅・全額回収不能の明白さ・売掛債権の1年経過等)の要件を、客観的な事実で満たす必要があります。要件を満たさないのに損金にすると、調査で否認され、追徴されます。一方で、要件を満たしているのに「まだ取れるかも」と損金にせず放置すると、本来落とせる損失を取りこぼします。回収不能な債権が生じたら、①どの類型に当てはまるか、②それを示す証拠(内容証明・登記・財産調査・取引記録)は揃うか、を確認してください。なお、貸倒れる前の段階でも、中小法人なら貸倒引当金で見込み損失を前倒しできます。回収可能性が下がった債権は、引当金の対象にならないか毎期チェックする価値があります。

3類型の使い分け:ケース別の判断

実際の場面で、どの類型を使えるかを整理します。

状況 使える類型 ポイント
取引先が破産・民事再生で債権が切り捨てられた 法律上の貸倒れ 切り捨ての決定があった期に損金
取引先が夜逃げ・財産皆無で全額回収不能が明らか 事実上の貸倒れ 全額回収不能の客観的証明が必要
取引が止まって1年以上経つ売掛金(担保なし) 形式上の貸倒れ 備忘価額1円を残して損金。売掛債権限定
回収は危ういが、まだ全額不能とは言えない (貸倒損失は不可)貸倒引当金 中小法人なら個別評価で見込み額を引当

「払ってくれない」と感じたら、まずどの状況に当てはまるかを見極めます。法的整理なら法律上、財産皆無なら事実上、取引停止1年なら形式上、まだ判断できないなら引当金——と、状況に応じて使える手段が変わります。

貸倒れに備える実務

  • 債権管理を徹底する: 取引先別の売掛金残高・回収サイト・滞留状況を月次で把握。早期に異常を発見する
  • 証拠を残す: 督促の記録(内容証明等)、債務者の財産状況の調査、取引停止の事実。貸倒損失の要件充足を示す資料になる
  • 担保・保証を取る: 与信リスクの高い取引先には担保・保証・前受金を。経営セーフティ共済(取引先倒産時の借入)も備えのひとつ
  • 引当金を活用する: 中小法人は貸倒引当金で見込み損失を前倒しできる

よくある質問(FAQ)

Q. 取引先が支払いを渋っています。今期の貸倒損失にできますか? A. 単なる支払い遅延では貸倒損失にできません。法的消滅・全額回収不能の明白さ・売掛債権の取引停止後1年経過などの要件が必要です。回収交渉・督促を続けつつ、要件を満たすか確認してください。

Q. 一部でも回収できそうな場合は損金にできませんか? A. 「事実上の貸倒れ」は全額回収不能が要件のため、一部回収見込みがあると使えません。ただし売掛債権なら「形式上の貸倒れ」(取引停止後1年)で備忘価額を残して損金にできる場合があります。また個別評価の貸倒引当金で見込み額を引き当てる方法もあります。

Q. 債務免除すれば貸倒損失にできますか? A. 債務者が債務超過の状態が相当期間続き、回収できないことが明らかな場合に書面で債務免除すれば、貸倒損失にできます。ただし回収可能なのに免除すると、寄附金(損金不算入)や役員給与と見なされるリスクがあるため、要件の確認が重要です。

Q. 貸倒引当金は誰でも使えますか? A. 資本金1億円以下の中小法人等が対象です(大法人は原則対象外)。一括評価・個別評価があり、見込み損失を前倒しで損金にできます。

Q. 貸倒引当金はいくらまで引き当てられますか? A. 一括評価は売掛債権等の期末残高に法定繰入率(業種別)または実績繰入率を掛けた額、個別評価は債務者の状況に応じた回収不能見込み額です。引き当てた額は翌期に戻し入れて再計算します。中小法人等が対象です。

Q. 関連会社への貸付金が回収できません。貸倒れにできますか? A. 第三者の債権と同じ要件(法的消滅・全額回収不能の明白さ等)が必要です。さらに関連会社への債権放棄は、回収可能なのに放棄すると寄附金(損金不算入)や役員給与と見なされるリスクがあるため、より慎重な判断が必要です(「法人の寄附金の損金算入限度」参照)。

Q. 貸し倒れた債権の消費税はどうなりますか? A. 課税売上に対応する売掛金が貸倒れた場合、原則課税の事業者は貸倒れた分の消費税額を控除できます(貸倒れに係る消費税額の控除)。法人税の貸倒損失とあわせて処理します。

まとめ

  • 貸倒損失は3類型「法律上(法的消滅)・事実上(全額回収不能の明白さ)・形式上(売掛債権の取引停止後1年等)」のいずれかに該当して初めて損金にできる
  • 単なる支払い遅延では損金にできない。客観的な事実・証拠が要件
  • 貸倒引当金は中小法人が使える、見込み損失を前倒しで損金にする制度(一括評価・個別評価)
  • 要件を満たさない損金処理は否認、満たすのに放置は取りこぼし。どちらも避ける
  • 日頃の債権管理・証拠の保存・担保や共済での備えが、いざというときの損金算入を支える

貸倒れの税務処理は Iroae税理士事務所へ

Iroae税理士事務所では、回収不能債権の貸倒損失の要件判定、貸倒引当金の活用、貸倒れに係る消費税の控除、債権管理体制の整備までご支援しています。「払ってもらえない売掛金をどう処理すればいいか」——要件と証拠の両面から、適切な損金処理をお手伝いします。

※本記事は2026年時点の制度をもとに、税理士の監修のもと作成しています。貸倒れの要件は個別の事実関係により判断が分かれます。処理にあたっては、必ず税理士にご相談ください。

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