法人税の申告は、自社でもできます。申告ソフトが進化し、簿記の知識が最小限でも申告書を作れる環境が整いました。
ただし、自社申告が現実的なのは「取引がシンプルで、税務調整が少ない小規模法人」に限られます。判断項目が増えるほどミスのコストが跳ね上がり、節税機会の取りこぼしも生じます。本記事では、自社申告が可能な条件・手順・申告ソフトの実力、そして限界を、税理士の立場から正直に解説します(申告書の中身は「法人税申告書の書き方」をご覧ください)。
自社申告に向く会社・向かない会社
向いている会社
- 売上・取引がシンプル(現金商売でない、取引先が少ない)
- 役員報酬・経費の調整がほぼない
- 赤字または利益が小さく、複雑な節税が不要
- 経営者・担当者に簿記の基礎知識がある
- 毎年同じパターンで、前年の申告書を参照できる
向いていない会社
- 交際費・役員給与・減価償却などの税務調整が多い
- 消費税の課税事業者(特に原則課税)
- 特例・税額控除(賃上げ・設備投資減税等)を使う
- 利益が出ていて節税の余地が大きい
- 融資・調達で決算書の質が問われる
「申告書を出せるか」と「正しく・有利に出せるか」は別問題です。後者には専門知識が要ります。
自社申告の手順
- 会計ソフトで帳簿を完成させる: 1年分の仕訳を入力し、決算整理(減価償却・引当金・経過勘定)を行う
- 決算書を作成: 貸借対照表・損益計算書等
- 申告ソフトで別表を作成: 利益から所得への調整(別表四)、税額計算(別表一)、各種別表
- 地方税申告書も作成: 第六号様式(都道府県)・第二十号様式(市区町村)
- 電子申告: e-Tax(国税)・eLTAX(地方税)で提出。添付書類(決算書・内訳明細書・概況説明書)も送信
- 納税: 2か月以内に納付
最大の難所は3の別表作成です。会計(決算書)と税務(申告書)のズレを調整する作業で、簿記とは別の知識が必要です。
申告ソフトの実力と限界
法人税の申告ソフト(クラウド型を含む)は進化しており、質問に答える形で別表を自動作成できるものもあります。
できること
- 決算書データから別表を自動生成
- 税額の自動計算
- e-Tax・eLTAXへの電子申告
ソフトでも難しいこと
- 税務調整の判断: 「この交際費は損金か」「この支出は資産計上か経費か」という判断はソフトはしてくれない。入力された内容を申告書にするだけ
- 特例の適用判断: 使える特例・税額控除を見つけて適用するのは利用者の責任
- 別表四・五の連動の検算: ソフトが計算しても、入力が誤っていれば誤った申告書が出る
つまり、ソフトは「正しく入力すれば正しい申告書を作る」道具で、何が正しい入力かを判断するのは利用者です。ここに自社申告の限界があります。
自社申告のリスク:ミスのコスト
- 過少申告: 税額を少なく申告すると、後日の調査で本税+過少申告加算税+延滞税
- 特例の取りこぼし: 賃上げ促進税制・少額減価償却資産・軽減税率の適用額明細書など、申告で取り損ねると還ってこない節税
- 別表の連動ミス: 別表四・五の不整合が積み上がり、後年の修正に過年度遡及が必要になる
- 青色申告の特典喪失: 期限後申告が続くと青色取消し(欠損金繰越が使えなくなる)
「税理士費用を節約したつもりが、取りこぼした節税額やミスの追徴で結果的に高くついた」——これが自社申告で最も多い失敗です。
税理士からのひとこと(監査目線):自社申告の是非は「税理士費用 対 ミス・取りこぼしのリスク」の比較で考えてください。役員報酬も交際費も特例もない、赤字の一人会社なら、申告ソフトでの自社申告は十分現実的です。一方、利益が出てきた会社で自社申告を続けると、賃上げ促進税制・設備投資減税・少額資産の特例などを取りこぼし、その額が税理士費用を簡単に超えます。私たちがおすすめするのは、①創業期・赤字期は自社申告またはスポットチェック、②利益が出始めたら顧問契約、という段階的な使い分けです。また「自社で申告したが正しいか不安」という場合の**申告書のセルフチェック(スポット依頼)**も有効です。全部任せるか全部自分でやるかの二択ではなく、フェーズに応じた関わり方があります。
コスト比較:自社申告は本当に安いか
「税理士費用を浮かせたい」が自社申告の動機ですが、隠れたコストまで含めて比較すべきです。
| 項目 | 自社申告 | 税理士依頼 |
|---|---|---|
| 直接コスト | 申告ソフト代(年数万円〜)+自分の時間 | 決算・申告料(15万〜30万円程度) |
| 取りこぼしリスク | 特例・控除の見落とし(数十万円規模も) | 専門家が適用 |
| ミスのリスク | 追徴・加算税・別表の連動ミス | 低い |
| 副次効果 | なし | 節税提案・資金繰り・融資支援 |
利益が出ていない一人会社なら、自社申告の「申告ソフト代+時間」が最も安く合理的です。一方、利益が出ている会社では、税理士費用30万円を「取りこぼした特例 数十万円+ミスのリスク+副次的な提案」と比較すると、依頼のほうが安くつくことが多くなります。自社申告が得かどうかは、会社の利益水準と取引の複雑さで決まる——一律の答えはありません。
自社申告を始める前のチェックリスト
- 会計ソフトで1年分の帳簿を完成させられるか(簿記の基礎)
- 減価償却・引当金など決算整理ができるか
- 別表四・五の税務調整の意味が分かるか
- 使える特例・税額控除を自分で調べて適用できるか
- e-Tax・eLTAXの電子申告環境があるか
- 前年の申告書(参照できるひな型)があるか
このリストに不安な項目があるなら、その部分だけでも専門家のチェックを入れることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. 簿記の知識がなくても自社申告できますか? A. 会計ソフトで帳簿を作る段階で簿記の基礎は必要です。さらに別表の税務調整には税務知識が要ります。完全に知識ゼロでの自社申告は、ミスのリスクが高くおすすめできません。
Q. 申告ソフトはいくらくらいですか? A. 製品により年数万円程度からあります。ただしソフト代を節約できても、税務判断のミス・特例の取りこぼしのコストのほうが大きくなり得る点を考慮してください。
Q. 消費税の申告も自社でできますか? A. 簡易課税・2割特例なら比較的シンプルです。原則課税は課税仕入れの区分・インボイスの確認が複雑で、自社申告のハードルが上がります。
Q. 一度自社申告したものを後から税理士に見てもらえますか? A. できます。申告書のセルフチェック(過年度の別表四・五の整合確認、特例の取りこぼし確認)をスポットで依頼する方法があります。「不安だが全部は頼みたくない」場合に有効です。
Q. 自社申告から税理士依頼に切り替えるタイミングは? A. 利益が出て節税の余地が大きくなったとき、消費税の課税事業者になったとき、融資・調達で決算書の質が問われるようになったときが目安です。「調整項目が増えてきた」と感じたら検討時期です。
まとめ
- 法人税の自社申告は可能だが、現実的なのは取引がシンプルで調整の少ない小規模法人
- 最大の難所は別表(税務調整)の作成。簿記とは別の知識が必要
- 申告ソフトは「正しく入力すれば正しい申告書を作る」道具。何が正しいかの判断は利用者の責任
- リスクは過少申告の追徴・特例の取りこぼし・別表の連動ミス・青色取消し
- 判断は「税理士費用 対 ミス・取りこぼしのリスク」。フェーズに応じた使い分け(創業期は自社/スポット、利益が出たら顧問)が現実的
自社申告のチェック・税務サポートは Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、自社申告された申告書のセルフチェック(スポット)、自社申告から顧問契約への移行、特例の取りこぼし確認まで、フェーズに応じた関わり方でご支援しています。「全部任せる」「全部自分」の二択ではなく、御社に合った形をご提案します。
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※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。申告の実務・ソフトの仕様は変わる場合があります。実務にあたっては、必ず国税庁の最新情報をご確認いただくか、税理士にご相談ください。