役員への賞与(ボーナス)は、何もしなければ損金になりません。損金にする唯一の現実的な方法が「事前確定届出給与」——あらかじめ「誰に・いつ・いくら」を税務署に届け出て、そのとおりに支給する制度です。
強力な制度ですが、運用は驚くほど厳格です。届出と支給が1円・1日でも違うと、原則として全額が損金不算入になります。本記事では、届出書の書き方・提出期限・実行時の鉄則・よくある事故を、監査法人出身の税理士が解説します。
制度の基本:なぜ「事前確定」なのか
役員給与で損金になるのは、原則として①毎月同額の定期同額給与、②事前確定届出給与、③(大企業向けの)業績連動給与の3つだけです。
役員賞与が自由に損金にできると、決算間際の利益調整に使われてしまいます。そこで「事前に金額と支給日を確定させて税務署に届け出たものに限り損金を認める」のがこの制度です。つまり、利益調整には使えませんが、年収の受け取り方を「月給+賞与」に設計することはできます。
何に使う制度か(実務での用途)
- 役員にも賞与の形で支給したい: 従業員と同じタイミングで役員にも賞与を出し、損金にする
- 資金繰りに合わせた支給設計: 入金の波が大きい事業で、月給を抑えて入金期にまとめて支給する
- 非常勤役員への年払い報酬: 年1回・2回の支給しかない非常勤役員の報酬を損金にする
届出書の提出期限(最重要・暗記推奨)
「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限は、次のとおりです。
通常の場合(定時株主総会で決議)
次のいずれか早い日まで:
- 株主総会等の決議の日から1か月を経過する日
- 事業年度開始の日から4か月を経過する日
3月決算で5月25日に定時総会を開いた場合、「6月25日」と「7月31日」の早いほう=6月25日が期限です。実務上は「総会から1か月」と覚えておけばほぼ間違いありません。
特殊な場合
- 新設法人: 設立の日から2か月以内
- 臨時改定事由(役員の就任・職制変更など)が生じた場合: その事由が生じた日から1か月以内
この期限は1日でも過ぎたら救済がありません。「決議はしたが届出を忘れた」が、この制度で最も多く、最も高くつく事故です。
届出書の書き方:記載のポイント
届出書は本体と付表(支給対象者ごとの明細)で構成されます。記載で特に重要なのは次の項目です。
- 支給対象者: 役職名・氏名。対象者ごとに付表を作成します
- 支給時期(支給日): 「◯年◯月◯日」と特定の日付で記載します。「◯月末頃」のような幅のある書き方はできません
- 支給金額: 確定額を記載します。「利益の◯%」のような業績連動の書き方は不可です
- 定期同額給与との関係: 月額報酬の額もあわせて記載し、年間の支給の全体像を示します
- 決議をした日・機関: 株主総会の決議日を記載(議事録と整合させます)
議事録との整合が生命線です。株主総会議事録に「取締役◯◯に対し、◯年◯月◯日に金◯◯円を支給する」と、届出書と完全に同じ日付・金額を記載してください。議事録と届出書がズレている場合、調査で支給の根拠を疑われます。
実行の鉄則:届出どおりに支給する
1円・1日でもズレたら原則全額否認
- 届出額100万円に対し、資金繰りの都合で90万円だけ支給 → その90万円は全額損金不算入
- 届出日が7月10日なのに、7月15日に支給 → 同様に損金不算入のリスク
- 増額して120万円支給 → やはり否認(増額分だけでなく全体)
「届出と異なる支給」は、一部でも全体の損金性を失わせるのが原則的な取り扱いです。さらに、個人側では受け取った全額に所得税・住民税がかかります。法人で損金にならず、個人で課税される——最悪の結果です。
支給しない(見送る)場合の正しい手順
業績が想定を下回り、賞与を見送りたい場合はどうするか。支給日が来る前に、役員本人が受け取りを辞退し、株主総会等で不支給を決議して記録を残すのが実務の作法です。支給日前に辞退・不支給が確定していれば、「支給ゼロ」自体で損金問題は生じません。
危険なのは中途半端な対応です。複数回の支給を届け出ていて、1回目は満額・2回目は減額のような形にすると、支給済みの分まで含めて否認されるリスクがあります。「全額支給」か「事前の完全な不支給」か、二択で運用してください。
税理士からのひとこと(監査目線):事前確定届出給与の事故は、ほぼすべて「期中の資金繰り・業績の変化」で起きます。私たちが顧問先に徹底しているのは3点です。①支給額は最悪シナリオでも払い切れる金額で届け出る(強気の満額を届け出ない)、②支給日は資金に余裕のある日(大口入金後・納税月を避ける)に設定する、③支給日の1か月前に**「支給するか・全額辞退するか」の判断日**をカレンダーに入れておく——。この制度は「届出書の書き方」より「1年後にそのとおり実行できる設計」がすべてです。
月給との配分はどう決めるか
「年収1,200万円を、月給100万円×12にするか、月給70万円×12+賞与360万円にするか」——配分設計の考え方を整理します。
- 資金繰りの波: 入金が特定の月に集中する事業(受託の検収月、繁忙期のある業種)は、月給を抑えて入金期に賞与を置くと、毎月の固定費が軽くなります
- 手取りの使途: 個人側で年1回の大きな支出(住宅ローンの繰上げ返済・教育費)がある場合、賞与で受け取る設計が家計と合います
- 実行リスクとの引き換え: 賞与の比率を上げるほど「届出どおりに支給できないリスク」の影響が大きくなります。初めて使う年は、賞与部分を年収の2〜3割程度に抑えて運用に慣れるのが安全です
- 社会保険の上限との関係: 賞与には保険料計算の上限がありますが、上限を狙った極端な配分のリスクは別記事のとおりです。あくまで資金繰り・受け取り方の設計として使うのが本筋です
よくある事故3パターン(実例ベース)
事故1:届出忘れ。5月の総会で賞与を決議し、議事録も完備。しかし届出書の提出を失念し、7月に気づいた。→ 期限(6月下旬)を過ぎており救済なし。支給すれば損金不算入、見送れば役員のモチベーションに影響。総会資料の最終ページに「届出書提出」のタスクを刷り込む運用で再発防止。
事故2:資金繰り都合の減額支給。12月支給の届出額300万円に対し、大口入金の遅れで200万円だけ支給。→ 200万円全額が損金不算入に。支給日前に全額辞退していれば傷はゼロだった。「一部でも払う」が最悪手であることを知らなかったことが原因。
事故3:支給日のうっかり遅延。届出の支給日が10日(土曜)で、振込を翌営業日の12日に実行。→ 日付の不一致を調査で指摘されるリスク。届出時に支給日が休日に当たらないかの確認、または休日の場合の取り扱いを事前に整理しておくべきケース。
3つに共通するのは「制度は知っていたが、運用のカレンダー管理ができていなかった」ことです。この制度は知識より仕組み(リマインド)で守るものです。
社会保険・源泉徴収の取り扱い
- 支給した賞与は社会保険の賞与扱いとなり、「被保険者賞与支払届」を支給から5日以内に提出します。保険料の対象には上限(厚生年金は1か月あたり150万円、健康保険は年度累計573万円)があります
- 源泉所得税は賞与の源泉徴収税額の算出率の表で計算します(前月の給与額に基づく率)
- 役員賞与の社会保険上の扱いを利用した「月額最低+賞与集中」の保険料節減スキームには、別記事「役員報酬と社会保険の最適化」で整理したとおりのリスクがあります。本記事の制度は本来、受け取り方の設計のための仕組みとお考えください
年間スケジュール例(3月決算・7月と12月に支給)
| 時期 | やること |
|---|---|
| 5月下旬 | 定時株主総会で決議(月額報酬+事前確定届出給与) |
| 6月中(総会から1か月以内) | 届出書を税務署へ提出 |
| 6月上旬(支給1か月前) | 7月支給分の実行判断(支給 or 完全辞退) |
| 7月10日(届出どおり) | 1回目支給。賞与支払届を5日以内に提出 |
| 11月上旬 | 12月支給分の実行判断 |
| 12月10日(届出どおり) | 2回目支給。賞与支払届を提出 |
| 翌5月 | 翌期分をあらためて決議・届出(毎年必要) |
届出は毎年必要です。「去年出したから今年も有効」ではありません。総会のたびに決議+届出をワンセットで回します。
よくある質問(FAQ)
Q. 提出を忘れました。今からでも出せますか? A. 期限後の届出に救済はありません。当期の賞与は損金不算入を受け入れて支給するか、支給を見送るかの二択です。来期分は総会後すぐ届け出る体制を整えてください。
Q. 支給日を「12月の最終営業日」のように書けますか? A. 特定の日付で記載するのが原則です。実際の支給も届出の日付どおりに行ってください。資金繰り上の余裕を持たせたいなら、確実に支給できる日付を選ぶことで対応します。
Q. 従業員分の賞与も届出が必要ですか? A. 不要です。届出が必要なのは役員に対する賞与だけです。従業員(使用人兼務役員の使用人分を含む)の賞与は、通常の損金です。
Q. 届け出た金額より多く支給したくなったら? A. 増額支給すると全体が否認されるため、できません。どうしても期中に増やしたい事情があるなら、増額分は損金不算入を覚悟のうえで支給するか、来期の設計で反映するかになります。
Q. 届出の内容を後から変更できますか? A. 臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更等)や業績悪化改定事由が生じた場合に限り、変更届出が認められています。期限はそれぞれ事由ごとに定められているため、該当しそうな事情が生じたら速やかに税理士へ相談してください。単なる心変わりでの変更はできません。
Q. 非常勤役員への年1回の報酬にも使えますか? A. 使えます。むしろ典型的な用途です。年1回・年2回の支給しかない非常勤役員の報酬は定期同額給与にならないため、事前確定届出給与として届け出ることで損金にします。
Q. 金額を複数の役員に分けて届け出る場合、1人だけ辞退したらどうなりますか? A. 届出は対象者ごとに判定されます。辞退した役員の分を支給日前に正しく不支給処理すれば、他の役員の届出どおりの支給分には影響しません。
まとめ
- 役員賞与を損金にする唯一の現実的な方法が事前確定届出給与。「誰に・いつ・いくら」を届け出て、そのとおり支給する
- 期限は「総会決議から1か月」と「期首から4か月」の早いほう。新設法人は設立から2か月。期限後の救済なし
- 届出書・議事録・実際の支給の3点が完全一致していること。1円・1日のズレで全額否認
- 見送るなら支給日前の完全辞退+不支給決議。一部減額が最も危険
- 設計の要諦は「最悪シナリオでも払える金額」「資金に余裕のある支給日」「支給1か月前の判断日」。届出は毎年必要
事前確定届出給与の設計・届出は Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、月給と賞与の最適な配分設計、届出書・議事録の作成(完全一致のチェック付き)、支給判断日のリマインド管理、賞与支払届までワンストップでサポートしています。「届出したとおりに実行し切る」体制ごと整えたい方は、総会の前にご相談ください。
- オンライン無料相談 予約フォーム:https://iroae.jp/contact/
- お電話でのお問い合わせ:050-3628-3750
- メールでのお問い合わせ:[email protected]
※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。届出期限・様式・社会保険の取り扱いは変更される場合があります。実際の届出にあたっては、必ず国税庁の最新情報をご確認いただくか、税理士にご相談ください。