役員報酬(定期同額給与)は「期首から3か月以内の改定」が大原則です。では、それを過ぎたら一切変えられないのか——答えは、例外的に変更が認められる2つの事由があります。
- 臨時改定事由: 役職・職務内容の大きな変更(社長就任、病気による職務縮小など)→ 増額・減額とも可
- 業績悪化改定事由: 経営状況の著しい悪化 → 減額のみ可
そして重要なのは、この2つに該当しない期中変更をした場合のペナルティ(損金不算入)の仕組みを正確に知っておくことです。本記事では、認められるケース・認められないケース・損金不算入の計算・必要な手続きと証拠資料を、監査法人出身の税理士が整理します。
大原則の確認:なぜ期中変更は制限されるのか
役員報酬が自由に変えられると、「儲かったから12月だけ報酬を3倍に」という利益調整が可能になってしまいます。そこで法人税法は、支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期の支給額が同額である給与(定期同額給与)だけを損金とし、改定は原則として期首から3か月以内に限定しています。
つまり期中変更の可否は「会社の自由か」ではなく、「法が認める例外事由に該当するか」という当てはめの問題です。
例外1:臨時改定事由(増額・減額とも可)
役員の地位や職務の内容に重大な変更があった場合です。典型例は次のとおりです。
- 社長の急逝により、副社長が社長に就任した(増額)
- 取締役が代表取締役に就任した、または代表を退いた
- 役員が病気で入院し、職務の大部分を執行できなくなった(減額)。回復して復帰した場合の増額も同様に認められ得ます
- 不祥事による役員の降格・処分としての減額
ポイントは「報酬を変えるべき客観的な事情が、役員の側に生じたか」です。単なる「思ったより業績が良い/悪い」は臨時改定事由ではありません。
手続き
事由が生じた時点で臨時株主総会を開催して決議し、議事録に「事由」と「新報酬額」「適用開始」を明記します。病気のケースなら診断書、就任のケースなら登記など、事由を裏づける客観資料をセットで保存してください。
例外2:業績悪化改定事由(減額のみ)
経営状況が著しく悪化し、報酬を減額せざるを得ない場合です。国税庁の取り扱いでは、おおむね次のような場合が該当するとされています。
- 財務諸表の数値が相当程度悪化した
- 倒産の危機に瀕している
- 取引銀行との借入条件の見直し(リスケジュール)の協議において、役員報酬の削減が議題となっている
- 株主・取引先など利害関係者との関係上、役員が経営責任として報酬削減をせざるを得ない事情がある
認められない典型例
- 一時的な資金繰りの悪化(数か月後に回復見込み)
- 利益目標・予算の未達にとどまるもの
- 「節税のために下半期は報酬を下げたい」という利益調整目的
線引きの感覚としては、「第三者(銀行・株主・取引先)に対して説明責任が生じるレベルの悪化か」です。社内の都合だけで完結する理由は、原則として認められません。
手続きと証拠資料
臨時株主総会の決議・議事録に加え、悪化の事実を示す資料が生命線です。
- 月次試算表・資金繰り表(悪化のトレンドが分かるもの)
- 銀行との協議記録・リスケジュールの申込書
- 主要取引先の喪失・受注急減を示す資料
- 経営改善計画書(報酬削減が計画の一部であることを示す)
税理士からのひとこと(監査目線):業績悪化減額の調査で問われるのは、「減額の意思決定が、悪化の事実より先か後か」の時系列です。試算表で悪化が確認できる月より前に減額していたり、悪化の根拠資料が決議日以降に作られたものだったりすると、「利益調整では」という見方をされます。私たちは、減額を検討する時点で①直近の試算表、②向こう6か月の資金繰り表、③減額幅の算定根拠(固定費削減計画の中での位置づけ)の3点を揃え、決議日付きで一式保存する運用にしています。逆に言えば、この3点を自然に揃えられない状況なら、その減額は事由に該当しない可能性が高い、という自己診断にもなります。
該当しない期中変更をするとどうなるか
事由に該当しない期中変更でも、支給そのものが違法になるわけではありません。問題は損金不算入です。
期中増額の場合
期首からの定期同額部分は損金のまま、増額後の上乗せ部分が損金不算入になります。
例: 月60万円 → 10月から月80万円に増額(3月決算)
- 損金になる: 月60万円 × 12か月 = 720万円
- 損金不算入: 上乗せ20万円 × 6か月 = 120万円
期中減額の場合(事由なし)
減額後の金額が「本来の定期同額」とみなされ、減額前の各月に支給していた上乗せ部分が損金不算入になります。
例: 月80万円 → 10月から月60万円に減額(3月決算)
- 損金になる: 月60万円 × 12か月 = 720万円
- 損金不算入: 減額前の上乗せ20万円 × 6か月 = 120万円
「下げたのに損金が減る」という直感に反する結果になるため、安易な期中減額は増額と同じくらい危険です。なお、損金不算入になっても役員個人の所得税は支給額全額に課されます。法人で損金にならず、個人では課税される——最も損な形です。
判定フロー:5つの質問
期中変更を検討したら、次の順で自問してください。
- 役員の地位・職務に重大な変更があったか? → はい:臨時改定事由として変更可(増減とも)
- 変更の理由は業績・財務の著しい悪化か? → いいえ:変更すれば損金不算入。来期期首まで待つ
- 悪化は第三者に説明責任が生じるレベルか?(銀行協議・取引先対応・株主対応) → いいえ:原則該当しない
- 悪化を示す客観資料(試算表・資金繰り表・協議記録)を決議前に揃えられるか? → いいえ:資料が揃うまで決議しない
- 減額か?(業績悪化改定で認められるのは減額のみ) → 増額したい場合は臨時改定事由がない限り不可
ケーススタディ:認められる・危ない・認められない
ケース1(認められる可能性が高い): 建設業A社。主要元請の倒産で受注の4割を喪失。資金繰り表で6か月後の資金ショートが見込まれ、銀行にリスケジュールを申し入れた。協議の中で役員報酬の削減を求められ、月100万円→50万円に減額。 → 第三者(銀行)との協議記録・資金繰り表・受注喪失の資料が揃っており、業績悪化改定事由として整理しやすい典型例です。
ケース2(危ない): 小売業B社。上半期の売上が前年比15%減で利益見込みが薄くなったため、「節税の意味もなくなったから」と10月から報酬を月80万円→50万円に減額。銀行借入は正常、資金繰りにも当面支障なし。 → 利益減少にとどまり、第三者への説明責任が生じる水準の悪化とは言いがたい状況です。減額自体は可能でも、損金計算上は減額前の上乗せ部分が否認されるリスクが高い例です。
ケース3(認められない): IT業C社。期末2か月前に大型案件の入金が確定し、利益が予想を大きく上回る見込みに。「税金がもったいない」と1〜3月だけ報酬を月60万円→150万円に増額。 → 典型的な利益調整であり、上乗せ分(90万円×3か月=270万円)は損金不算入です。さらに個人側では270万円にも所得税・社会保険がかかり、二重に損をします。この場合の正解は、期中の報酬ではなく決算賞与(従業員向け)や設備投資など、別の決算対策を検討することでした。
実務での選択肢:期中に動けないときの代替手段
事由に該当せず、しかし資金繰りが厳しい場合の現実的な選択肢です。
- 未払計上はしない: 報酬を「払ったことにして未払」を続けると、定期同額性や実在性を疑われます。支給実態は崩さないでください
- 役員からの借入で一時しのぎ: 会社の資金が苦しいなら、報酬は規定どおり支給したうえで、役員が会社へ貸し付ける形が税務上は安全です(役員借入金)
- 来期の期首改定で正規に見直す: 期中は耐えて、来期の改定で適正水準に直すのが王道です
- 本当に悪化しているなら、事由該当の整理を: 銀行協議・改善計画とセットであれば、業績悪化改定として正面から減額できます
よくある質問(FAQ)
Q. 新型コロナのような外的ショックで売上が急減した場合は減額できますか? A. 外的要因による急激な売上減少で、資金繰りや取引関係に深刻な影響が出ている場合は、業績悪化改定事由に該当し得ます。重要なのは影響の客観資料(売上推移・資金繰り表・支援申請の記録等)を残すことです。
Q. 期中に役員を新しく選任した場合、その人の報酬はどうなりますか? A. 新任役員への報酬支給開始は臨時改定事由に当たり、就任時から定期同額で支給すれば損金になります。就任の決議・議事録を整えてください。
Q. 病気で数か月だけ休み、復帰後に元の報酬へ戻すのは認められますか? A. 職務執行ができない期間の減額と、復帰に伴う増額は、いずれも臨時改定事由として認められ得ます。診断書・休養期間・復帰の事実を資料として残してください。
Q. 非常勤役員の報酬も期中変更の制限を受けますか? A. 定期同額給与として損金算入している以上、同じ制限を受けます。なお年俸制のような不定期支給は定期同額に当たらないため、支給形態自体の設計にご注意ください。
Q. 業績悪化で減額した後、期中に業績が回復したら元に戻せますか? A. 業績悪化改定で認められるのは減額です。期中での再増額は臨時改定事由(地位・職務の変更)がない限り、増額分が損金不算入になります。戻すのは来期の期首改定で行うのが原則です。
Q. 減額した分を、業績回復後にまとめて支給(復活支給)できますか? A. まとめて支給する一時金は定期同額給与に該当せず、事前確定届出給与の届出もなければ損金不算入です。「後で取り返す」前提の減額は設計として成立しません。
まとめ
- 期中変更が認められるのは「臨時改定事由(役職・職務の重大な変更)」と「業績悪化改定事由(減額のみ)」の2つだけ
- 業績悪化は「銀行・株主など第三者への説明責任が生じるレベル」が目安。目標未達・一時的な資金繰りでは該当しない
- 事由なき期中変更は、増額でも減額でも上乗せ部分が損金不算入。減額でも損をする仕組みに注意
- 手続きは臨時株主総会の決議+議事録+事由の客観資料。意思決定と悪化の事実の時系列が調査で問われる
- 動けないときは、役員借入での一時しのぎと来期期首での正規改定が王道
期中の報酬変更のご相談は Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、御社の状況が臨時改定事由・業績悪化改定事由に該当するかの判定、必要な証拠資料の整理、議事録の作成支援、損金不算入額の試算まで、期中変更の意思決定を実務レベルでサポートしています。「この状況で下げられるのか」——判断に迷ったら、決議の前にご相談ください。
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※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。改定事由の該当性は個別の事実関係により判断が分かれます。実行にあたっては、必ず国税庁の最新情報をご確認いただくか、税理士にご相談ください。