「補助金」と「助成金」——どちらも返済不要の公的なお金ですが、性格はまったく違います。
一言で言うと、補助金は「事業投資への競争的な支援」(採択審査があり、落ちることがある)、**助成金は「雇用・労務の取り組みへの定型的な支援」(要件を満たせば原則受給できる)**です。この違いを知らないまま「もらえるお金」と一括りにすると、申請の戦略も資金繰りの計画も誤ります。本記事では、両者の違い・法人が使える代表的な制度・申請の流れ・落とし穴を整理します。
補助金と助成金の違い:比較表
| 項目 | 補助金 | 助成金 |
|---|---|---|
| 主な所管 | 経済産業省・中小企業庁・自治体 | 厚生労働省(雇用関係) |
| 性格 | 事業投資の一部を支援 | 雇用・労務改善の取り組みを支援 |
| 審査 | 採択競争(事業計画の質で競う。落ちる) | 要件充足で原則支給(計画と実施の手続きが正しければ) |
| 公募期間 | 期間限定(年数回の締切) | 通年で申請できるものが多い |
| 金額感 | 数十万〜数千万円 | 数十万円規模が中心 |
| 相性のよい専門家 | 中小企業診断士・税理士等 | 社会保険労務士(申請代行は社労士の独占業務) |
| 共通点 | 返済不要・原則後払い・使途/取り組み限定・課税対象 |
実務上の覚え方は「投資するなら補助金、人を雇う・育てるなら助成金」です。
法人が使える代表的な補助金
制度の名称・内容・公募時期は毎年変わります。以下は定番の枠組みです(最新の公募要領を必ず確認してください)。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者(商業・サービス業は従業員5人以下等)の販路開拓・業務効率化の経費(広告・ウェブサイト・展示会・店舗改装等)を支援する、最も裾野の広い補助金です。創業期の最初の1本に向いています。
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
設備投資・革新的な製品/サービス開発を支援する中核的な補助金。数百万〜数千万円規模の設備投資と相性がよく、製造業に限らずサービス業でも使われます。
IT導入補助金
会計ソフト・受発注システム・予約システム・セキュリティ対策等、ITツールの導入費用を支援。インボイス・電子帳簿保存法対応のソフト導入でも活用されてきました。登録済みのITベンダーと組んで申請する建て付けです。
事業承継・M&A関連、省力化・新事業進出関連
事業承継やM&Aに伴う費用、人手不足対応の省力化投資(ロボット・自動化設備)、新分野への進出を支援する枠組みも整備が続いています。大型の投資・転換を考えるタイミングで、その年の公募ラインナップを確認する価値があります。
自治体の補助金
都道府県・市区町村ごとに、創業助成・家賃補助・展示会出展・人材確保などの独自制度があります。国の制度より競争率が低いことも多く、本店所在地の自治体サイトの確認は必須です。
法人が使える代表的な助成金(雇用関係)
- キャリアアップ助成金: 有期雇用の従業員を正社員転換した場合等
- 人材開発支援助成金: 従業員の研修・訓練の費用と訓練中の賃金の一部
- 両立支援等助成金: 育児休業の取得促進・職場復帰支援等
- 特定求職者雇用開発助成金: 高齢者・障害者等の雇入れ
助成金は「やろうとしている雇用施策が、たまたま助成対象だった」が健全な形です。受給のために不要な制度を作るのは本末転倒ですが、正社員化・研修・育休など、どのみち行う施策なら、着手前に対象制度を確認しないのはもったいない、というのが実務感覚です。重要なのは**「実施の前に計画届」**を求める制度が多いこと。実施後に気づいても遡れません。
申請から入金までの流れ(補助金の場合)
- 公募要領の確認: 対象者・対象経費・補助率(1/2、2/3等)・上限額・締切
- 事業計画の作成・申請: 電子申請が基本(gBizIDの取得が前提。取得に時間がかかるため最初に着手)
- 採択発表: 申請から1〜3か月程度
- 交付決定 → 事業実施: 交付決定前に発注・契約した経費は原則対象外。フライング発注が最多の失敗です
- 実績報告 → 確定検査 → 入金: 領収書・証憑を揃えて報告。入金は事業完了からさらに数か月後
- 事後管理: 取得財産の管理、数年間の状況報告が求められる制度もあります
申請から入金まで半年〜1年超。この時間軸を資金繰り表に正しく載せることが、補助金活用の前提です。
税理士からのひとこと(監査目線):補助金・助成金で実際に見るトラブルは3つです。①フライング発注——採択の連絡で気が緩み、交付決定前に契約して対象外に。②証憑の不備——見積書・発注書・納品書・請求書・振込記録の5点セットが揃わず、実績報告で減額。③不正受給への加担——「実態より多く見せましょう」という業者の誘いに乗ると、返還命令・加算金・公表・刑事責任まであり得ます。雇用助成金の勤務実態の偽装も同罪です。返済不要のお金は、もらった後の説明責任が融資より重いお金だと覚えてください。なお、受給した補助金は益金(課税対象)です。設備系の補助金には圧縮記帳で課税を繰り延べる選択肢があるため、採択されたら申告前に必ず税理士へ共有を。
ケーススタディ:設備補助金1,000万円採択後の税金
機械2,000万円の投資に対し補助金1,000万円が採択された会社(実効税率30%)の例です。
何もしない場合: 補助金1,000万円が当期の益金になり、約300万円の税負担が発生。「もらったのに3割税金で消えた」という不満の典型パターンです(機械の減価償却は別途進みますが、当期に経費化されるのは一部だけです)。
圧縮記帳を使う場合: 機械の帳簿価額を1,000万円圧縮(取得価額2,000万円→帳簿上1,000万円)し、圧縮損1,000万円と補助金の益金1,000万円を相殺。当期の課税はゼロになります。その代わり、以後の減価償却費は圧縮後の1,000万円ベースで小さくなるため、課税が消えるのではなく将来に分散される仕組みです(課税の繰延)。
どちらが有利かは当期と将来の利益水準次第ですが、採択の連絡を受けたら、申告前に圧縮記帳の要否を必ず検討する——これだけは全社共通のルールにしてください。
自社用「制度カレンダー」の作り方
補助金・助成金は「知った時には締切が過ぎている」が最大の敵です。年初に30分で作れる対策があります。
- 投資・採用の年間計画を書き出す(設備更新・ウェブ刷新・正社員化・研修)
- 各項目に「使えそうな制度」を仮置きする(本記事の定番リスト+自治体サイト)
- 制度ごとの公募時期・締切をカレンダーに転記し、申請準備の開始日(締切の2か月前)にリマインドを設定
- gBizIDを今すぐ取得しておく(取得自体に時間がかかるため、申請直前では間に合いません)
「制度ありき」ではなく「計画ありき」で当てはめる——この順番なら、補助金のために事業を曲げる失敗も起きません。
補助金・助成金に共通する5つの注意点
- 後払い: 先に自己資金・融資で支払う。つなぎ資金とセットで計画する
- 課税対象: 受給額は益金。設備系は圧縮記帳の検討を
- 対象経費の縛り: 「何にでも使えるお金」ではない。対象外経費の混入は減額の元
- 手続きの期限: 交付決定前の発注NG・実施期間・報告期限。カレンダー管理が本体
- 本業との整合: 補助金のために事業を曲げない。「どのみちやる投資・施策」に当てるのが鉄則
よくある質問(FAQ)
Q. 補助金の採択率はどれくらいですか? A. 制度・回次により大きく変動しますが、おおむね3〜6割程度の幅で推移するものが多いです。採択率より重要なのは、自社の計画が公募要領の審査項目(政策目的との合致・実現性・数値目標)に沿っているかです。
Q. 申請代行業者から営業が来ます。頼むべきですか? A. 補助金の申請支援自体は正当な業務ですが、報酬体系(着手金+成功報酬の水準)、実績、そして「実態以上に盛る」提案をしないかで選んでください。雇用助成金の申請代行は社会保険労務士の独占業務のため、無資格業者への依頼は避けるべきです。
Q. 赤字でも補助金はもらえますか? A. 制度によりますが、財務状況が審査に影響する場合があります。助成金は雇用要件が中心のため、赤字でも対象になることが多いです。
Q. 個人事業主でも使えますか? A. 多くの補助金・助成金は個人事業主も対象です(雇用助成金は雇用保険適用事業所であることが前提)。
Q. 補助金で買った設備を売却・処分してもよいですか? A. 一定期間(処分制限期間)内の売却・転用には承認が必要で、補助金の返還が生じる場合があります。取得財産の管理ルールまで含めて運用してください。
まとめ
- 補助金=投資への競争的支援(落ちる)、助成金=雇用施策への定型支援(要件充足で原則支給)
- 定番は「持続化・ものづくり・IT導入+自治体独自」、助成金は「キャリアアップ・人材開発・両立支援」
- 流れの肝は「gBizIDの早期取得」「交付決定前の発注禁止」「証憑5点セット」
- 入金は半年〜1年後の後払い・課税対象。資金計画では「柱」でなく「上乗せ」に位置づける
- 不正受給は返還+加算金+公表+刑事リスク。「盛る」提案をする業者とは組まない
自社が使える制度の棚卸しは Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、御社の投資計画・採用計画から使える補助金・助成金を棚卸しし、申請スケジュールの設計、採択後の経理処理(圧縮記帳・消費税の調整)、提携社労士との連携まで一気通貫でご支援しています。「来期の投資、何か使える制度はあるか」——投資の意思決定の前に、一度ご相談ください。
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※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。各制度の名称・要件・公募時期は頻繁に変更されます。申請にあたっては、必ず中小企業庁・厚生労働省・各自治体の最新の公募要領をご確認ください。