資本政策表(キャップテーブル)は、「誰が・何株・何%持っているか」の現在と未来を1枚で示す、スタートアップ経営の最重要管理資料です。投資家との交渉は必ずこの表の上で行われ、この表が不正確な会社は、調達の入口(デューデリジェンス)で信頼を失います。
作り方の要点は3つです。①潜在株式(SO・J-KISS)込みの「完全希薄化ベース」で作る、②現在の表と将来シナリオの表を分けて持つ、③資本取引のたびに即日更新する——。本記事では、様式・作成手順・更新ルールを実務の型として解説します。
何を載せるか:必須の列
資本政策表の基本形は、株主を行に、次の項目を列に並べた一覧です。
| 列 | 内容 |
|---|---|
| 株主名 | 創業者・役職員・投資家・SOプール |
| 株式の種類 | 普通株式・優先株式(種類ごと)・新株予約権(SO・J-KISS) |
| 株式数(潜在込み) | 発行済株式数と、転換・行使後の株式数 |
| 持株比率(発行済ベース) | 現に発行されている株式だけでの比率 |
| 持株比率(完全希薄化ベース) | SO・J-KISS等がすべて株式になった前提の比率 |
| 取得価額・払込額 | 1株あたり価額と払込総額(ラウンドごと) |
| 取得日・根拠書類 | 契約・登記との突合用 |
「完全希薄化ベース」がすべての基準
投資家が見るのは常に完全希薄化ベース(フルダイリューテッド)です。発行済株式だけの比率で「創業者70%」に見えても、SOプール10%とJ-KISS転換分15%を織り込めば実態は6割を切っている——この差を把握していない経営者は、交渉の土俵で常に不利になります。比率の列は必ず2本(発行済/完全希薄化)持つのが鉄則です。
作成手順:5ステップ
ステップ1:現状の確定(登記・契約と突合する)
履歴事項全部証明書(発行済株式数・種類)、株主名簿、SOの割当契約・付与台帳、J-KISSの投資契約を集め、書類ベースで現状の表を作ります。記憶や口頭の合意ではなく、登記・契約と1株単位で一致させることが出発点です。ここでズレ(登記漏れ・台帳の不備)が見つかったら、表の完成より先に是正します。
ステップ2:潜在株式の転換条件を織り込む
- SO: 付与済み・行使済み・失効済みを台帳から反映。未付与のプール枠も「枠」として1行立てます
- J-KISS: キャップ・割引率から、想定ラウンド価格別の転換株式数を計算します。複数本あるなら1本ずつ。ここが最も計算ミスの多い工程です
ステップ3:将来ラウンドのシナリオを置く
次回調達の想定(調達額・評価額・放出比率)を1〜3シナリオ置き、ラウンド後の完全希薄化ベース比率がどうなるかを並べます。「シリーズAで20%放出すると、創業者は何%になるか。上場時に3分の1を残せるか」——この逆算が資本政策表の本来の使い方です(考え方は「スタートアップの資金調達と資本政策の基礎」をご覧ください)。
ステップ4:検算する
- 株式数の合計・比率の合計(100%)の検算
- 登記簿の発行済株式数・資本金との一致
- J-KISS転換の試算が投資契約の条項(キャップ・割引・端数処理)と一致しているか
ステップ5:版管理のルールを決める
「最新版がどれか分からない」が実務最大の事故です。ファイル名に日付と版数(例: 資本政策表_2026-06-12_v12)、更新履歴のシートを付け、正本の保管場所を1か所に定めます。
更新ルール:「資本取引の日」に即日更新
次のイベントが起きたら、その日のうちに更新します。
- 増資(株式発行)・J-KISSの発行・転換
- SOの付与・行使・失効・退職者の処理
- 株式の譲渡・買い戻し
- 登記の完了(申請中の取引は「予定」として区分表示)
税理士からのひとこと(監査目線):デューデリジェンスで資本政策表を見ると、その会社の管理水準が一目で分かります。崩れている会社の典型は3つ。①SOの失効処理漏れ——退職者の未行使分が表に残り続け、プールの残枠を誤認している。②複数J-KISSの転換漏れ——2本目以降の転換計算が反映されておらず、次ラウンドの価格交渉で希薄化のサプライズが起きる。③登記との不一致——株式分割や過去の譲渡が表に反映されていない——。逆に、契約・登記・台帳・表が1株単位で一致している会社は、それだけで投資家の信頼を得ます。資本政策表は「作る資料」ではなく「合い続けさせる台帳」です。月次決算と同じく、月1回の定例突合をカレンダーに入れてください。
エクセル管理の型と移行のタイミング
スタートアップの初期はエクセル(スプレッドシート)で十分です。シート構成の定番は次の4枚です。
- 現在のキャップテーブル(発行済+完全希薄化)
- SO台帳(付与日・対象者・個数・行使価額・ベスティング・失効)
- J-KISS管理(本数ごとの条件と転換シミュレーション)
- 将来シナリオ(ラウンド別の希薄化試算)
株主・SO保有者が数十名を超えたり、種類株式が複数になったりした段階で、株式管理の専用サービスへの移行を検討します。移行の際も、エクセルで正確な現状が確定していることが前提です。
サンプル:完全希薄化ベースの表の形
最小構成のイメージです(シード調達後・SOプール設定済みの例)。
| 株主 | 種類 | 株式数 | 発行済比率 | 完全希薄化比率 |
|---|---|---|---|---|
| 創業者A | 普通株式 | 6,000 | 75.0% | 60.0% |
| 共同創業者B | 普通株式 | 1,500 | 18.7% | 15.0% |
| 投資家X | 優先株式 | 500 | 6.3% | 5.0% |
| SOプール(未付与含む) | 新株予約権 | (1,000) | — | 10.0% |
| J-KISS投資家Y | 新株予約権 | (1,000)※ | — | 10.0% |
| 合計 | 10,000 | 100% | 100% |
※J-KISSはキャップ・割引率による転換試算値。想定ラウンド価格を変えると株式数が動くため、転換試算の前提(どの価格で計算したか)を必ず欄外に注記します。
この例では、発行済ベースで75%に見える創業者Aの実態が、完全希薄化では60%——15ポイントの差が潜在株式に隠れています。次のラウンドで15%放出すれば、創業者は50%近辺まで下がる計算であり、交渉の出発点はこの数字から始まります。
よくある質問(FAQ)
Q. 資本政策表は誰が作るべきですか? A. 一次責任は経営者(CFO・管理部門)にあります。税理士・弁護士は検算と論点指摘の役割です。「専門家に任せてあるから把握していない」状態は、交渉の場で自分の首を絞めます。
Q. 投資家にはどこまで開示しますか? A. 調達の交渉に入れば、完全希薄化ベースの全体像の開示は前提となります。個別の取得価額など機微な情報の開示範囲は、交渉段階と秘密保持契約に応じて整理します。
Q. 株価(評価額)の欄はどう書けばよいですか? A. 各ラウンドの1株あたり発行価額を事実として記載します。なお、税務上の株価(SOの行使価額の根拠となる時価)はラウンド価格と別の概念のため、混在させず欄を分けるか注記してください。
Q. 名義株・口頭で約束した株がある場合は? A. 最も危険な状態です。表に載せる前に、契約書面化・名義の整理を先に行ってください。書面のない「約束」は、調達・上場の段階で必ず火種になります。
Q. デューデリジェンスでは資本政策表の何を突合されますか? A. ①履歴事項全部証明書(発行済株式数・種類・新株予約権)、②株主名簿・原始定款からの異動履歴、③SO割当契約と付与決議の議事録、④J-KISS等の投資契約——との一致です。1株でも合わなければ、その原因の説明と是正が投資実行の条件になります。
Q. 資本政策表の管理は弁護士と税理士のどちらに頼むべきですか? A. 契約・登記の適法性は弁護士・司法書士、転換計算・税務(SOの適格性・株価)は税理士の領分です。一次管理は自社で行い、資本イベントのたびに両者の検算を通す——この三者体制が標準形です。
Q. 過去の資本政策を失敗しています。やり直せますか? A. 株の買い戻し・SOの再設計・契約の整備など、是正手段はありますが、時間とコストがかかります。重要なのは現状を正確に表に落とすこと——是正の設計は、正確な現状把握からしか始められません。
まとめ
- 資本政策表は「完全希薄化ベース」が基準。比率の列は発行済/完全希薄化の2本立てで
- 作成は「書類と突合した現状確定 → 潜在株式の織り込み → 将来シナリオ → 検算 → 版管理」の5ステップ
- 更新は資本取引の即日+月1回の登記・台帳との定例突合。「合い続けさせる台帳」として運用する
- 事故の典型はSO失効処理漏れ・複数J-KISSの転換漏れ・登記との不一致の3つ
- 初期はエクセル4シート構成で十分。規模拡大時は専用サービスへ——ただし正確な現状確定が先
資本政策表の整備・検算は Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、登記・契約・台帳と突合した資本政策表の作成・検算、J-KISS転換シミュレーション、SO台帳の整備、調達前のデューデリジェンス事前点検まで、「投資家に出せる表」づくりをご支援しています。次の調達の話が出る前に、現状の1枚を正確に固めましょう。
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※本記事は2026年時点の一般的な実務をもとに、税理士の監修のもと作成しています。資本政策の設計・是正は個別の契約条件により異なります。実行にあたっては、必ず専門家にご相談ください。