ストックオプション(SO)の「税制適格」と「非適格」の違いは、一言で言えば課税のタイミングと税率の違いです。
- 適格: 権利行使時は課税されず、株を売却した時に約20%(譲渡所得)
- 非適格: **権利行使した瞬間に給与として最大約55%**課税され、さらに売却時に値上がり分へ約20%
同じ含み益でも手取りが大きく変わり、非適格では「株を売っていないのに納税だけ発生する」資金問題まで生じます。本記事では、両者の違いを数字で比較し、適格要件の要点、そして「あえて非適格を使う場面」まで解説します。適格要件の詳細・導入手順はピラー記事「ストックオプションの税制【税制適格の要件】」をご覧ください。
課税の仕組みを図解する
SOの利益は2段階で生まれます。「行使時の含み益(時価−行使価額)」と「売却時の値上がり益(売却価額−行使時時価)」です。
非適格SOの課税
| タイミング | 課税内容 | 税率 |
|---|---|---|
| 権利行使時 | 含み益が給与所得等として総合課税 | 最大約55%(累進) |
| 売却時 | 行使後の値上がり分が譲渡所得 | 約20.315% |
行使時の課税が最大の問題です。未上場株なら売却できないため、現金収入ゼロのまま納税義務だけが発生します。さらに発行会社には源泉徴収義務が生じ、会社・本人双方の実務負担が重くなります。
適格SOの課税
| タイミング | 課税内容 | 税率 |
|---|---|---|
| 権利行使時 | 課税なし(繰延べ) | — |
| 売却時 | 売却価額−行使価額の全体が譲渡所得 | 約20.315% |
課税は売却時の1回だけ。現金化と納税のタイミングが一致し、税率も分離課税の約20%で固定されます。
数字で比較:1万株・行使価額100円・売却2,000円のケース
行使時の時価1,000円、売却価額2,000円、1万株のモデルです。
| 項目 | 適格 | 非適格(限界税率43%と仮定) |
|---|---|---|
| 行使時の税金 | 0円 | 含み益900万円 × 43% ≒ 約387万円 |
| 売却時の税金 | 1,900万円 × 20.315% ≒ 約386万円 | 1,000万円 × 20.315% ≒ 約203万円 |
| 税負担合計 | 約386万円 | 約590万円 |
| 手取り | 約1,514万円 | 約1,310万円 |
| 納税資金の問題 | なし(売却代金から) | 行使時に現金387万円が必要 |
税額の差約200万円に加え、非適格は「行使時の現金確保」という構造問題を抱えます。役職員のインセンティブとして配る以上、原則は適格で設計する——これが出発点です。
適格要件の要点(チェックリスト形式)
適格にするには、租税特別措置法の要件をすべて満たす必要があります。主要なものだけ再掲します。
- 付与対象は自社(一定の子会社含む)の取締役・執行役・使用人(監査役・大口株主とその特別関係者は除外。創業社長は通常対象外)
- 権利行使は付与決議から2年経過後〜10年以内(設立5年未満の非上場は15年以内)
- 行使価額は契約時の時価以上
- 年間の行使価額合計が限度額以内(設立5年未満2,400万円/5年以上20年未満の非上場等3,600万円/その他1,200万円)
- 新株予約権の譲渡禁止・無償発行
- 株式の保管委託または発行会社の管理要件
1つでも欠ければ全体が非適格になります。「適格のつもりで配ったが、契約書の行使期間設定が誤っていて非適格だった」——この種の事故は、行使時(数年後)に発覚し、もはや直せません。発行前の要件チェックがすべてです。
あえて非適格を使う場面はあるのか
実務では、非適格SOにも限定的な活用場面があります。
- 大口株主・社外協力者への付与: 適格の対象外となる人(創業株主・顧問・業務委託先など、社外高度人材の認定が使えないケース)にインセンティブを渡したい場合、選択肢は非適格(または有償SO)しかありません
- 行使期間を柔軟にしたい場合: 「2年待たずに行使できる設計」など、適格の枠に収まらない条件が事業上必要な場合
- 上場後の短期行使・売却を前提とする設計: 行使と同日に売却できる環境なら、納税資金問題は緩和されます(税率差は残ります)
ただし、いずれの場合も行使時の給与課税と会社の源泉徴収義務を引き受ける設計だという自覚が必要です。「とりあえず無償で配ったSOが結果的に非適格だった」と「理解したうえで非適格を選んだ」は、まったく別物です。
有償SOという第3の選択肢
適格・非適格(無償)と並ぶ実務の選択肢が有償SOです。役職員がオプションの公正価値を自腹で払い込んで購入する形のため、給与(労働の対価)ではなく投資と整理され、行使時課税を避けて売却時の譲渡課税に一本化する設計です。
- 大口株主・社外者にも発行できる柔軟性があります
- 生命線は発行価額(オプション評価)の合理性。恣意的に安い価額は給与認定リスクに直結します
- 払込み負担があるため、若手従業員向けの広範な付与には向きません
「適格が使えない相手には有償SO、それも難しければ理解のうえで非適格」——この優先順位が実務の定石です。
発行側(会社)の違いも押さえる
| 項目 | 適格 | 非適格 |
|---|---|---|
| 源泉徴収 | 不要(売却時は本人の申告) | 行使時に源泉徴収義務 |
| 損金算入 | 原則なし | 行使時の給与等として損金算入の余地 |
| 事務負担 | 限度額・対象者の管理 | 行使時の源泉・年末調整・支払調書 |
非適格は会社側に損金が立ち得る点が唯一の税務メリットですが、赤字のスタートアップでは損金の価値が薄く、源泉徴収の資金・事務負担のほうが重いのが実情です。
税理士からのひとこと(監査目線):「適格か非適格か」の相談の前に、私たちは必ず付与対象者のリストと持株比率を見せていただきます。理由は単純で、SO設計の失敗の多くは「この人には適格を出せない」(大口株主・監査役・社外)という対象者の制約を知らずに、全員一律の制度設計をしてしまうことから始まるからです。正しい順序は、①対象者を適格可能/不可能に仕分ける→②適格組は要件どおりに、不可能組は有償SOか非適格かを個別に設計する→③全体の希薄化と行使価額の整合を資本政策表で確認する——です。タイプの違うSOが社内に併存すること自体は普通のことで、怖いのは「全員同じだと思い込んでいた」ことだけです。
よくある質問(FAQ)
Q. 付与時に課税されることはありますか? A. 無償SO(適格・非適格とも)は、譲渡制限が付いている限り付与時点では課税されません。課税の分岐は行使時です。
Q. 非適格SOの行使時の「時価」はどう決まりますか? A. 上場株なら市場価格、未上場なら所得税法上の評価に基づきます。未上場の行使は時価算定の論点が重く、行使のタイミング設計を含めて事前に専門家へ相談してください。
Q. 適格SOを退職後に行使できますか? A. 適格要件自体は「付与時に取締役・使用人等であること」を求めますが、行使時の在籍については契約設計によります。多くの会社は契約で退職後の行使を制限しています。退職者の扱いは契約書の必須設計項目です。
Q. 適格SOで取得した株を、行使してすぐ売らないとどうなりますか? A. 問題ありません。売却するまで課税されず、保有期間の制限もありません。ただし未上場のまま長期保有する場合、売却機会と相続まで含めた設計が必要になります。
Q. 信託型SOはどちらに分類されますか? A. 国税庁の整理により、信託型SOも行使時に給与課税される(実質的に非適格と同様の課税)ことが明確化されています。過去に導入した会社は、源泉徴収を含む対応状況を必ず確認してください。
Q. 適格SOと非適格SOを同じ人に両方付与できますか? A. できます。適格の年間行使限度額を超えるインセンティブを設計したい場合に、適格+非適格(または有償SO)を組み合わせる例があります。それぞれの課税と行使条件を本人に明確に説明することが前提です。
Q. M&Aで会社が買収された場合、SOはどうなりますか? A. 買収契約に従い、SOの買い取り・承継・消滅などの処理が行われます。適格SOでも、株式を取得せずSO自体を譲渡(買い取り)した場合は給与課税になるなど、出口の形で課税が変わります。M&Aの交渉では、SO保有者の税負担まで含めた設計が必要です。
まとめ
- 違いの本質は課税のタイミングと税率。適格は「売却時に約20%」、非適格は「行使時に最大約55%+売却時約20%」
- 非適格は現金なき納税と会社の源泉徴収義務という構造問題を抱える。原則は適格で設計
- 適格要件は1つ欠けても全体が非適格。発行前のチェックリスト確認がすべて
- 適格を出せない相手(大口株主・社外)には有償SOが第一候補、理解のうえでの非適格が次点
- 設計の正しい順序は「対象者の仕分け→タイプ別設計→資本政策表で全体確認」
ストックオプションのタイプ設計は Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、付与対象者リストの適格性仕分け、適格・有償・非適格の組み合わせ設計、行使価額の算定支援、行使時・売却時の税務手続き(源泉・申告)まで、SOの入口から出口までをご支援しています。「全員に同じSOを配る前に」、対象者リストを持ってご相談ください。
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※本記事は2026年時点の制度をもとに、税理士の監修のもと作成しています。適格要件・税率・信託型SOの取り扱いは税制改正等により変わる場合があります。発行・行使にあたっては、必ず国税庁の最新情報をご確認いただくか、専門家にご相談ください。