決算前の節税対策には、明確な鉄則があります。「お金を使わない対策から先に、お金を使う対策は最後に」。
世の中の「決算対策」には、節税額より出ていく現金のほうが大きいものが少なくありません。本記事では、監査法人出身の税理士が実務で使う順番——①漏れの回収(支出ゼロ)→②計上時期の前倒し(支出は予定どおり)→③新たな支出を伴う対策——の3段階で、決算前チェックリストを期限つきで整理します。個別の論点は各詳細記事にリンクしています。
第1段階:支出ゼロの「漏れ回収」(決算月でも間に合う)
まず、新たに1円も使わずに損金を増やす確認項目です。ここが意外と大きく、合計で数十万〜数百万円の損金が「拾える」ことがあります。
- 未払費用の計上漏れ: 期末時点で発生済み・支払い未了の費用を計上したか
- 給与の締め後分(締め日から期末までの日割り給与)
- 社会保険料の会社負担分(期末月分の未払計上)
- 固定資産税の未到来納期分(賦課決定済みなら全額損金にできる選択あり)
- 水道光熱費・通信費・利息などの期末月分
- 不良債権の貸倒処理: 回収不能が明らかな売掛金はないか(法的整理・取引停止後1年経過など、貸倒の形式要件の確認)
- 不良在庫・陳腐化在庫の処分: 廃棄(廃棄証明を残す)や見切り売却で損失を確定したか。帳簿上の評価減だけでは原則認められないため、実際に処分するのがポイント
- 使っていない固定資産の除却: 既に廃棄・使用中止した設備が帳簿に残っていないか(除却損)
- 回収見込みのない仮払金・貸付金の整理: 内容不明の仮払金は税務調査でも問題になります。実態を確認して精算
- 特例・控除の適用漏れ: 賃上げ促進税制(給与増加の税額控除)、中小企業投資促進税制など、**「支出済みなのに申告で取り損ねる」**控除がないか
第2段階:計上時期の前倒し(どうせ払うものを当期に)
次に、いずれ払う予定の支出を、要件を満たして当期の損金に前倒しする項目です。
- 短期前払費用: 家賃・保険料・サブスクリプション等を年払いに切り替え、期末までに支払うと、1年分を当期の損金にできます(支払日から1年以内のサービス対応分・毎期継続が要件。売上原価になるもの・借入金利息等との対応があるものは対象外)
- 経営セーフティ共済の前納: 加入済みなら1年分前納で最大240万円を当期損金に。手続きは決算月の前月までに(詳細は「経営セーフティ共済の前納」)。未加入なら今期は間に合わない可能性が高いため、来期に向けて加入手続きを
- 少額減価償却資産(30万円未満): 中小企業は取得価額30万円未満の資産を年合計300万円まで全額損金にできます。来期早々に買う予定のパソコン・什器・工具があれば、期末までに取得・使用開始して前倒し
- 修繕の前倒し: 予定している修繕・メンテナンスを期末までに完了させる(資本的支出と修繕費の区分に注意。20万円未満や周期3年以内の修理は修繕費処理が明確)
- 広告・採用などの先行投資: 来期予算で予定していた広告出稿・採用費を当期に実施する
第3段階:新たな支出を伴う対策(効果と資金繰りを天秤に)
ここから先は現金が出ていく対策です。「節税額=支出×実効税率(約30%)」、つまり支出の7割は会社から消えることを前提に、それ自体に価値がある支出だけを選びます。
- 決算賞与: 従業員への利益還元。期末までに各人別に通知+期末から1か月以内に支給で未払計上が可能(要件の詳細は「決算賞与の要件と注意点」)。支出が人材に向かう、最も筋の良い「使う対策」
- 設備投資(中小企業経営強化税制等): 経営力向上計画の認定など事前手続きを踏めば即時償却または税額控除が選べる場合があります。認定には時間がかかるため、決算間際の駆け込みは不可。計画的に
- 倒産防止共済への新規加入(未加入の場合): 申込みから引き落としまで1〜2か月かかるため、決算3か月前が事実上の締切です
決算間際にやってはいけないこと
- 「節税のため」だけの物品購入: 使わない備品・過剰在庫の購入は、30%の節税のために70%を捨てる行為です
- 車の駆け込み購入: 減価償却は月割りのため、決算月の購入では当期の損金はわずか。車を使うなら期首が正解です(「社用車の経費計上」参照)
- 期中の役員報酬の増額: 定期同額給与のルールにより増額分は損金不算入。役員への還元は来期の設計で行います
- 架空経費・売上の繰り延べ操作: 節税ではなく脱税です。請求書の日付操作・在庫の過少計上は調査で必ず突かれ、重加算税の対象になります
税理士からのひとこと(監査目線):決算対策の質は、実は**決算月の動きではなく「決算3か月前の着地予測の精度」で決まります。私たちの事務所では、決算3か月前に①当期利益の着地レンジ、②納税額の見込み、③第1〜第3段階の選択肢と効果額を1枚にした「決算対策メニュー」をお出しし、社長に選んでいただく形にしています。このタイミングなら共済の前納も決算賞与の段取りも間に合い、「使う・使わない」を資金繰り表と並べて冷静に判断できます。逆に、決算月に入ってからできることは第1段階の漏れ回収がほとんどです。「決算対策はいつやるか」と聞かれたら、答えは常に「3か月前」**です。
ケーススタディ:利益1,500万円見込みの会社の対策パッケージ例
3月決算・利益着地1,500万円見込み・現預金2,500万円の製造業をモデルに、3段階を組み合わせた例です。
| 対策 | 段階 | 当期の損金 | 現金支出 |
|---|---|---|---|
| 社保・給与・固定資産税の未払計上 | ① | 約120万円 | 0円 |
| 陳腐化在庫の廃棄(証明書付き) | ① | 約80万円 | 0円 |
| 家賃の年払い切替(短期前払費用) | ② | 約240万円 | 予定どおり(前倒しのみ) |
| 経営セーフティ共済の前納 | ② | 240万円 | 240万円(積立として戻る) |
| 少額資産(パソコン等の更新前倒し) | ② | 約90万円 | 約90万円(予定の前倒し) |
| 決算賞与(従業員8名) | ③ | 約200万円+社保 | 約230万円 |
| 合計 | 約970万円 | 純粋な追加支出は決算賞与分が中心 |
利益は1,500万円→約530万円となり、税負担は概算で約290万円軽減。うち純粋な「使う対策」は決算賞与だけで、残りは漏れ回収・前倒し・積立です。現金の毀損を最小にしながら税負担を3分の1近くまで圧縮する——3段階の順番を守ると、このような設計になります(数値はモデルケースの概算です)。
時系列まとめ:決算からの逆算カレンダー
| タイミング | やること |
|---|---|
| 決算3か月前 | 着地予測・納税見込みの算定。対策メニューの選択。共済の新規加入はここが締切 |
| 決算2か月前 | 共済前納の申出。設備・修繕・広告の前倒し発注。決算賞与の総額枠決定 |
| 決算1か月前 | 短期前払費用の年払い契約・支払い。少額資産の取得・使用開始。決算賞与の査定 |
| 決算月 | 決算賞与の各人別通知(書面)。在庫処分・除却の実行と証拠化。未払費用の集計準備 |
| 決算後1か月以内 | 決算賞与の支給期限。各種証憑の整理 |
| 申告まで | 未払計上・特例適用の最終確認。税額控除の適用漏れチェック |
「来期から効く」構造的な対策も忘れずに
決算前の対策は単年の調整です。並行して、来期の期首から仕込む構造的な対策を予約しておくと、毎年の決算対策が年々楽になります。
- 役員報酬の最適化(期首3か月以内の改定)
- 役員社宅の導入(「役員社宅による節税」)
- 出張旅費規程の整備(「出張旅費規程で節税する方法」)
- 事前確定届出給与の設計(役員賞与の損金化)
- 小規模企業共済・iDeCoなど経営者個人の枠の活用
単年の「使う対策」より、これら毎年自動で効く仕組みのほうが、5年累計の効果は確実に大きくなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 決算まであと2週間です。今からできることはありますか? A. 第1段階(未払費用・貸倒・除却・在庫処分)と、決算賞与の通知、少額資産の取得・使用開始は物理的に間に合う可能性があります。逆に共済の前納・新規加入はほぼ間に合いません。残り期間で「できること・できないこと」を最初に仕分けるのが先決です。
Q. 節税対策はどこまでやるべきですか? A. 「実効税率約30%」が判断基準です。税金を1万円減らすには3万円超の損金が必要——この交換比率に納得できる支出(事業に必要・従業員に還元・将来戻ってくる積立)だけを選び、納得できないものは納税して内部留保にするのが、財務的には正解です。納税は信用(融資余力)でもあります。
Q. 赤字見込みでも決算前にやることはありますか? A. あります。欠損金を正しく確定させる(漏れなく損金計上する)こと自体が、翌期以降10年の節税原資になります。また、赤字の期は経営セーフティ共済の解約など「益金をぶつける」出口イベントの好機でもあります。
Q. 対策をやりすぎて利益が小さくなると、融資に響きませんか? A. 響きます。金融機関は決算書の利益と自己資本を見ます。借入や増枠の予定がある期は、節税より「利益を見せる」ほうが合理的な場合も多く、共済掛金の資産計上方式(利益を減らさず損金にする経理)のような両立策もあります。納税と信用のバランスまで含めて設計してください。
Q. 消費税の決算対策はありますか? A. 消費税は利益でなく取引で決まるため、法人税のような「対策」の余地は小さいです。簡易課税・原則課税の選択や、大型設備投資の期の方式選択といった「事前の届出設計」が本体です(「法人のインボイス対応」参照)。
まとめ
- 順番は「①支出ゼロの漏れ回収 → ②計上時期の前倒し → ③使う対策」。逆走(いきなり物を買う)が最大の失敗
- 即効性の主力は未払費用・短期前払費用・少額資産300万円枠・共済前納・決算賞与の5つ
- 「使う対策」は支出の7割が消える交換であることを直視し、価値ある支出だけ選ぶ
- 決算対策の成否は3か月前の着地予測で決まる。決算月にできるのは漏れ回収まで
- 単年の対策と並行して、役員報酬・社宅・旅費規程など毎年効く仕組みを来期期首に仕込む
決算前の総点検は Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、決算3か月前の着地予測と「決算対策メニュー」の提示(効果額・期限・資金繰り影響つき)、各対策の実行支援(共済前納・決算賞与の書面整備・特例適用)まで、選んで実行するところまで伴走します。「今期、何がいくら効くのか」を1枚の表でご覧いただけます。決算月が近い方はお急ぎください。
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※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。各特例(少額減価償却資産・賃上げ促進税制・経営強化税制等)の要件・期限は税制改正により変わる場合があります。実行にあたっては、必ず国税庁の最新情報をご確認いただくか、税理士にご相談ください。