「今期は利益が出そうだから、何か節税をしておきたい」——決算が近づくと、多くの経営者がこう考えます。ところが世の中には、効果の薄い「節税商品」や、かえって会社の体力を奪う対策があふれています。なかには、税務調査で否認されてペナルティを招くものもあります。
本記事では、監査法人出身の税理士の視点から、中小法人が使える「王道の節税策」だけを体系立てて解説します。あわせて、「保険で節税」など誤解されやすいテーマも、なぜ効果が限定的なのかまで正直にお伝えします。目先の税額だけでなく、手元のお金を本当に増やす観点で読んでください。
節税を考える前に:4つのタイプを区別する
「節税」とひと口に言っても、中身はまったく異なります。まず次の2つの軸で整理すると、判断を誤りません。
軸1:お金が出ていくか/出ていかないか
- お金が出ていかない節税(制度の活用・適用漏れの解消)=最優先
- お金が出ていく節税(経費を使う)=必要な支出ならよいが、税金を減らすためだけに使うのは本末転倒
軸2:税金が永久に減るか/先送り(繰延)にすぎないか
- 永久に減る節税(税額控除・控除の活用)=効果が確定する
- 課税の繰延(今の利益を将来に移すだけ)=いつか課税される。出口戦略とセットで考える必要がある
たとえば後述する共済や生命保険の多くは「課税の繰延」です。払ったときは損金でも、受け取るときに課税されるため、出口(解約・受取)のタイミングを設計できなければ、節税効果は見かけだけになります。この区別こそ、節税で失敗しないための最重要ポイントです。
税理士からのひとこと:「税金を払いたくないから経費を使う」は、多くの場合お金を減らすだけです。100万円の利益に対する法人税の負担はその一部であり、100万円を使い切れば手元には何も残りません。私たちは「払うべき税金は払い、残るお金を最大化する」発想をおすすめしています。
王道の節税策1:お金が出ていかないもの(最優先)
まず取り組むべきは、追加の支出なしに税負担を下げられるものです。
役員報酬の最適化
会社の利益と社長個人の所得のバランスを調整し、法人税・所得税・社会保険料の合計が最小になる水準に役員報酬を設定します。期首から3か月以内にしか変更できないなど独特のルールがあるため、計画的な設定が欠かせません。詳しくは「役員報酬の決め方と変更」の記事で解説しています。
欠損金の繰越控除
赤字(欠損金)が出た年があれば、その赤字を翌期以降に繰り越し、黒字と相殺して法人税を減らせます。青色申告法人であれば、原則として一定年数の繰越が可能です。過去の赤字を使い切れていないケースは、見直すだけで税負担が下がります。
各種特例・控除の適用漏れをなくす
中小企業向けには、設備投資の税額控除や即時償却(中小企業経営強化税制など)、賃上げを行った場合の税額控除など、使えるのに使われていない制度が数多くあります。これらは要件と申告手続きが必要で、知らずに見送ると永久に取り戻せません。適用漏れの確認は、もっとも費用対効果の高い節税です。
王道の節税策2:必要な支出を正しく損金にする
事業に必要な支出を、制度を使って漏れなく損金にするものです。
少額減価償却資産の特例(30万円未満)
通常、10万円以上の備品は資産計上して数年かけて減価償却しますが、中小企業者等(青色申告で常時使用する従業員が一定数以下など)は、取得価額30万円未満の資産を、年間合計300万円まで、その期に全額損金算入できます。パソコンや什器など、必要な設備投資の前倒しに有効です。なお、この特例は適用期限が定められ、これまで延長が重ねられてきました。令和8年度改正後の最新の適用期限は、国税庁タックスアンサーNo.5408でご確認ください。
決算賞与(従業員へのボーナス)
決算間際に利益が出た場合、従業員へ決算賞与を支給すると、その事業年度の損金にできます。未払計上で当期の損金にするには、(1)各人に支給額を事業年度末までに通知し、(2)事業年度末から原則1か月以内に支払い、(3)当期に損金経理する、という要件をすべて満たす必要があります。要件を1つでも欠くと当期の損金にできないため、手続きの正確さが重要です。
出張旅費規程による日当
出張旅費規程を整備すれば、実費精算とは別に「日当」を支給でき、会社の損金になります。受け取る役員・従業員側も、社会通念上相当な範囲であれば所得税が非課税となる点に特徴があります。規程の整備と、相当な金額設定がポイントです(別記事で詳しく解説します)。
役員社宅の活用
会社が住宅を借り上げて役員に社宅として貸すと、賃料の一定部分を会社負担(損金)にできます。役員から受け取るべき賃料相当額の計算ルールがあり、これを満たすことが前提です(別記事で詳しく解説します)。
交際費の枠を正しく使う
中小法人は、交際費等について「年800万円まで全額損金」または「接待飲食費の50%を損金」の有利なほうを選べます。また、1人当たり10,000円以下の一定の飲食費は、そもそも交際費等から除外して損金にできます(令和6年4月1日以後支出分)。これらの適用期限・金額基準は改正され得るため、最新の取り扱いは国税庁の公式情報でご確認ください。
王道の節税策3:共済を使う(ただし出口設計が前提)
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
取引先の倒産に備える共済で、掛金は全額損金になります。月額5,000円〜20万円、掛金総額800万円まで積み立てられ、40か月以上納めれば解約時に掛金が全額戻ります。法人の代表的な「お金を残しながらの節税」手段ですが、**解約手当金は受取時に益金(課税対象)**になるため、赤字の期にぶつけるなどの出口戦略が欠かせません。詳しくは専用記事で解説します。
小規模企業共済(経営者個人の制度)
経営者・役員の退職金を自分で積み立てる制度で、掛金は経営者個人の所得控除になります(会社の損金ではない点に注意)。月額最大7万円まで掛けられ、個人の所得税・住民税を軽減できます。役員報酬とあわせて設計すると効果的です。
節税の前に:法人税の負担はどのくらいか
節税策を選ぶ前に、自社の税負担の大きさを知っておきましょう。法人の利益(所得)には、法人税のほかに地方法人税・法人住民税・法人事業税などがかかり、これらを合わせた実質的な負担率を「実効税率」と呼びます。会社の規模や所在地によりますが、中小法人ではおおむね所得の3割前後が目安です。
ここで重要なのが、中小法人には法人税率の軽減措置がある点です。資本金1億円以下などの中小法人は、所得のうち年800万円以下の部分について、本則より低い軽減税率が適用されます(この軽減税率には適用期限が定められており、改正で延長されてきました。最新の税率・期限は国税庁でご確認ください)。
つまり、利益が大きく出るほど高い税率がかかる一方で、一定額までは負担が軽い構造です。「800万円の壁」を意識し、利益を平準化する(特定の期に利益が偏らないようにする)ことも、中長期で見れば有効な考え方になります。
やってはいけない・効果が薄い「節税」
「法人保険で節税」は、もう以前ほど効きません
かつては、解約返戻金の高い生命保険に加入して保険料を損金にし、節税する手法が広く使われました。しかし2019年の通達改正により、解約返戻率に応じて損金算入が制限され、以前のような大きな節税効果は得られにくくなっています。そもそも保険は「課税の繰延」であり、解約時の返戻金は益金になります。保障が必要だから入るのは合理的ですが、節税だけを目的に入ると、資金を長期間拘束されたうえ、出口で課税されて思ったほど得をしない、ということが起こります。
「節税商品」「節税スキーム」への過信
足場リース、海外不動産、過度な保険などの「節税商品」は、税制改正でルールが変わると効果が消えたり、税務調査で否認されたりするリスクがあります。仕組みが複雑で、説明を受けても自分で理解できないものには手を出さないのが安全です。
利益を消すためだけの「無駄な経費」
「税金を払うくらいなら使う」と不要なものを買うのは、最も多い失敗です。前述のとおり、利益を使い切れば手元のお金は減ります。事業の成長に必要な支出かどうかを基準に判断してください。
税理士からのひとこと:税務調査では、「事業との関連性」と「金額の妥当性」が見られます。私たちが現場で見てきた否認の多くは、派手なスキームではなく、私的な支出の経費化や、規程・議事録などの形式の不備です。王道を正確に積み上げることが、結局いちばん強い節税になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 法人の節税で「最強」の方法は何ですか? A. 万能の最強策はありません。効果が大きいのは、追加の支出なしに行える「役員報酬の最適化」「使える特例・税額控除の適用漏れの解消」「欠損金の繰越控除」です。まずここから着手するのが、もっとも費用対効果の高い節税です。
Q. 法人の節税対策を一覧で知りたいです。 A. 本記事で挙げた、(1)お金が出ていかないもの(役員報酬・欠損金繰越・各種特例)、(2)必要な支出を正しく損金にするもの(少額減価償却資産・決算賞与・出張旅費規程・役員社宅・交際費の枠)、(3)共済(経営セーフティ共済・小規模企業共済)が王道です。会社の状況によって有効な組み合わせは変わります。
Q. 「法人 節税商品」をすすめられましたが大丈夫ですか? A. 仕組みが複雑で自分で理解できないものは避けるのが安全です。税制改正で効果が消えたり、税務調査で否認されたりするリスクがあります。「保障が必要だから入る」「事業に必要だから買う」という本来の目的があるかを基準に判断してください。
Q. 法人保険は節税になりますか? A. 2019年の通達改正以降、解約返戻率に応じて損金算入が制限され、以前ほどの節税効果はありません。そもそも保険料は「課税の繰延」で、解約返戻金は受取時に課税されます。保障目的なら合理的ですが、節税だけを目的とするのは効果が限定的です。
Q. 決算間際でもできる節税はありますか? A. 決算賞与(要件を満たせば未払計上で当期損金)、少額減価償却資産の特例を使った必要な設備の前倒し購入、未払費用の計上漏れの確認などがあります。ただし、利益を消すためだけの不要な支出は手元のお金を減らすだけなので避けましょう。
まとめ
法人の節税は、「派手な手法」より「正しい順番」で効果が決まります。
- まずお金が出ていかない節税(役員報酬の最適化・欠損金の繰越・特例の適用漏れ解消)から着手する
- 必要な支出は、少額減価償却資産の特例・決算賞与・出張旅費規程・役員社宅・交際費の枠で正しく損金にする
- 共済(経営セーフティ共済・小規模企業共済)は有効だが、多くは「課税の繰延」。出口戦略とセットで考える
- 保険・節税商品で節税は効果が限定的。保障目的なら合理的だが、節税だけを目的にしない
- 最大の節税は、適用漏れをなくし、形式(規程・議事録・証憑)を正しく整えること
「利益が出てきたが、何から手をつければいいか分からない」という段階こそ、節税の効果が最も大きく出ます。決算を迎える前に、自社で使える制度を棚卸ししておきましょう。
自社に合った節税の設計は Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、監査法人出身の公認会計士・税理士が、**税務調査に耐える「王道の節税」**を、会社の利益水準と社長のライフプランに合わせて設計します。役員報酬の最適化、使える特例・税額控除の洗い出し、共済の出口設計まで、見かけだけでない「手元のお金が残る節税」をご提案します。
「今期の利益にどう備えればいいか相談したい」「使えていない制度がないか確認したい」「保険や節税商品をすすめられているが妥当か知りたい」——そうしたお悩みは、お気軽にご相談ください。
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※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。各節税策の要件・限度額・適用期限は、税制改正により変わる場合があります。少額減価償却資産の特例・交際費の特例などの適用期限や、生命保険の損金算入の取り扱いを含め、実行にあたっては必ず国税庁の最新情報(タックスアンサーNo.5408・No.5265 等)をご確認いただくか、税理士にご相談ください。