法人と個人事業は、同じ事業をしていても税金の仕組みがまったく違います。所得にかかる税率、経費にできる範囲、社会保険、赤字の扱い——あらゆる面で差があり、それが「どちらが得か」の判断を難しくしています。
結論を先に言えば、所得が小さいうちは個人事業がシンプルで有利、所得が大きくなると法人のほうが税率・設計の面で有利になります。本記事では、両者の税金の違いを項目別に比較します(法人化の損得判断は「個人事業主が法人化する年収の目安」をご覧ください)。
比較表:法人と個人事業の税金の違い
| 項目 | 個人事業 | 法人 |
|---|---|---|
| 所得への税金 | 所得税5〜45%(累進)+住民税約10% | 法人税等 実効約23〜34% |
| 税率の性質 | 累進(所得が増えるほど高い) | 比例的(一定で頭打ち) |
| 自分への給与 | なし(利益=自分の所得) | 役員報酬(給与所得控除あり) |
| 給与所得控除 | なし | あり(最大195万円) |
| 所得分散 | 専従者給与(要件あり) | 家族を役員にして分散しやすい |
| 経費の範囲 | 事業関連費 | 役員社宅・出張日当・退職金など幅が広い |
| 社会保険 | 国保・国民年金 | 健保・厚生年金(強制加入・労使折半) |
| 赤字の繰越 | 3年(青色) | 10年 |
| 赤字時の負担 | ほぼなし | 住民税均等割 年7万円〜 |
| 消費税 | 同じ枠組み(免税判定は別人格でリセット) | 設立当初最大2年免税の可能性 |
| 事務負担・コスト | 軽い(確定申告) | 重い(決算・申告・社保。税理士費用も) |
| 退職金(自分へ) | 不可 | 可(退職所得課税で有利) |
| 信用 | 弱い | 強い |
税率の違い:累進 対 比例
最大の違いは税率の構造です。
- 個人事業: 所得税は累進で、所得が増えるほど税率が上がる(課税所得900万円超で所得税33%+住民税10%=43%、1,800万円超で50%、4,000万円超で55%)
- 法人: 実効税率は約23〜34%でほぼ頭打ち
所得が小さいうちは個人の累進税率が低く有利ですが、所得が大きくなると法人の比例的な税率のほうが低くなります。この逆転が起きる分岐点が、おおむね所得800万円前後です。
経費・所得分散の違い:法人のほうが手段が多い
- 給与所得控除: 法人なら役員報酬に給与所得控除(最大195万円)が付き、課税対象が圧縮される。個人事業の事業所得にはない
- 役員社宅・出張日当・退職金: 法人なら規程整備で経費化できる範囲が広い(個人事業にはない、または限定的)
- 所得分散: 法人は家族を役員にして報酬を分け、世帯で累進を下げやすい
- 経営セーフティ共済: 個人事業でも使えるが、法人のほうが活用の幅が広い
法人は「お金の受け取り方・残し方」の設計の自由度が高く、これが所得が大きい場合の有利性につながります。
社会保険の違い:法人は強制加入で負担増
- 個人事業: 国民健康保険・国民年金(所得に応じて国保料が増えるが上限あり)
- 法人: 健康保険・厚生年金に強制加入(社長1人でも)。労使合計で報酬の約30%
法人化で社会保険料の負担が増えるのが、「法人化したのに手取りが増えない」最大の原因です。一方、厚生年金は将来の年金が国民年金より手厚く、健康保険の扶養も使えるという面もあります(「役員報酬と社会保険の最適化」参照)。
数値イメージ:所得別の負担の差
同じ事業所得でも、個人と法人で負担がどう変わるかのイメージです(単身・概算・社会保険料を含む大まかな傾向)。
| 事業所得 | 個人事業(所得税+住民税+国保等) | 法人化(法人税+個人の税・社保+維持コスト) | 傾向 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 比較的軽い | 維持コスト・社保で割高になりやすい | 個人有利 |
| 700万円 | 累進が効き始める | 拮抗 | ほぼ互角 |
| 1,000万円 | 累進+国保上限で重い | 設計次第で軽くできる | 法人有利 |
| 1,500万円 | 高い累進税率 | 法人留保・退職金で分散 | 法人有利 |
所得が小さいうちは個人事業のシンプルさと軽い負担が勝ち、大きくなると法人の税率の頭打ち・所得分散・退職金が勝つ——この傾向がはっきり出ます。ただし、これは社会保険・維持コスト・設計(社宅・共済)まで含めた総合の話で、税率表だけでは判断できません。自分の所得・家族構成での実額シミュレーションが必須です。
赤字・消費税の違い
- 赤字の繰越: 個人(青色)3年に対し、法人は10年。法人のほうが赤字を将来の黒字と相殺できる期間が長い
- 赤字時の負担: 法人は赤字でも住民税均等割(年7万円〜)がかかる。個人事業はほぼなし
- 消費税: 個人事業の課税売上の実績は法人に引き継がれないため、法人化で免税判定がリセットされ、設立当初最大2年免税の可能性(「法人化で消費税が2年免除される仕組み」参照)
税理士からのひとこと(監査目線):「法人と個人、どっちが得か」は一律には決まりません。判断軸は所得の大きさ、家族構成、社会保険、事業の信用ニーズ、将来の退職金・承継——これらの総合です。ざっくりした目安では、所得が安定して800万円を超えてきたら法人化の検討開始、900万〜1,000万円なら多くの場合法人有利です。ただし、これは税金だけの話。法人には決算・申告・社保という事務負担と、税理士費用・均等割という固定費が加わります。「税金は安くなるが手間とコストが増える」のが法人化です。逆に、所得が小さいうちは個人事業のシンプルさ(確定申告だけ)が大きな価値です。私たちは、確定申告書をもとに「個人継続」と「法人化」の手取りを社会保険料・維持コスト込みで比較し、数字と手間の両面でご提案しています。「なんとなく法人」も「なんとなく個人のまま」も避け、自分の数字で判断してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 法人と個人事業、結局どちらが得ですか? A. 所得が小さいうちは個人事業(シンプル・低い累進・社保が軽い)、所得が大きくなると法人(税率の頭打ち・給与所得控除・所得分散・退職金)が有利です。分岐点は所得800万円前後が目安です。
Q. 法人化すると必ず節税になりますか? A. なりません。社会保険料の増加・維持コスト(均等割・税理士費用)があるため、所得が小さいと法人化でかえって負担が増えることもあります。実額シミュレーションでの判断が必要です。
Q. 個人事業の経費と法人の経費、どちらが広いですか? A. 法人のほうが広い傾向です。役員社宅・出張日当・自分への退職金など、個人事業にはない(または限定的な)経費化手段があります。
Q. 消費税は法人のほうが得ですか? A. 法人化で免税判定がリセットされ、設立当初最大2年免税の可能性があります(資本金1,000万円未満等)。ただしインボイス登録をすれば免税は使えません。取引構造によります。
Q. 途中で個人事業から法人に変えられますか? A. 法人成り(法人化)はいつでも可能です。資産・契約の引き継ぎ、個人事業の廃業など手続きがあります(「法人成りの手続きと順番」参照)。逆に法人から個人に戻すのは解散・清算のコストがかかります。
まとめ
- 法人と個人事業は税金の仕組みがまったく違う。税率・経費・社会保険・赤字繰越・消費税・事務負担すべてに差
- 税率は個人=累進(最大55%)、法人=比例的(約23〜34%)。逆転の分岐は所得800万円前後
- 法人は給与所得控除・社宅・退職金・所得分散など設計の手段が多いが、社保強制加入・均等割・事務負担が増える
- 所得が小さいうちは個人事業のシンプルさが、大きくなると法人の税率と設計が有利
- 「どっちが得か」は所得・家族・社保・将来設計の総合。自分の数字でのシミュレーションで判断する
法人と個人事業の比較シミュレーションは Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、確定申告書をもとに「個人継続」と「法人化」の手取り比較(税金・社会保険料・維持コスト込み)、法人化の最適タイミング、法人成りの実行までご支援しています。「法人化すべきか」を、印象ではなく御社の数字で判断しましょう。
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※本記事は2026年時点の制度をもとに、税理士の監修のもと作成しています。税率・社会保険料率は改正により変わります。判断にあたっては、必ず実額シミュレーションを行うか、税理士にご相談ください。