法人成りの手続きと順番【2026年版】個人事業から会社への切り替えを時系列で税理士が解説

法人成りは「会社をつくって終わり」ではありません。実務の作業量で言えば、会社設立は全体の3割。残りの7割は、資産・契約・お金の流れを個人から法人へ移し替え、個人事業を正しく締める作業です。

COLUMN会社設立・法人化

法人成りは「会社をつくって終わり」ではありません。実務の作業量で言えば、会社設立は全体の3割。残りの7割は、資産・契約・お金の流れを個人から法人へ移し替え、個人事業を正しく締める作業です。

本記事では、法人成りの全工程を時系列の6フェーズで整理します。法人化すべきかどうかの判断(損益分岐)は「法人化のメリット・デメリットとタイミング」を、設立手続きの詳細は「会社設立の費用と流れ」をご覧ください。

全体マップ:6フェーズと標準スケジュール

フェーズ 内容 目安期間
① 設計 切替時期・資本金・役員報酬・消費税の判断 1か月
② 会社設立 定款・登記・法人口座 1〜1.5か月
③ 資産・負債の引き継ぎ 在庫・設備・車両・借入の移し替え 設立後すぐ
④ 契約・名義の切り替え 賃貸借・リース・許認可・取引先・保険 1〜2か月(並行)
⑤ 個人事業の締め 廃業届・最後の確定申告 切替後〜翌年3月
⑥ 法人の立ち上げ届出 税務署・自治体・年金事務所・給与体制 設立後90日が勝負

全体で3か月程度を見込むのが現実的です。

フェーズ①:設計——切替日を「いつにするか」が最重要

  • 切替時期: 個人側の繁忙期・在庫の少ない時期・キリのよい月初が実務的です。消費税の免税期間(法人側)と個人の課税状況を併せて、年単位で損得が変わることがあるため、ここは必ず試算してから決めます
  • 資本金: 1,000万円未満が大原則(「資本金はいくらにすべきか」参照)
  • 役員報酬: 設立後3か月以内に決定が必要。個人時代の利益水準から逆算して設計しておきます
  • インボイス: 個人で登録済みの場合、法人として新たに登録申請が必要です(番号は引き継がれません)。取引先に発行する請求書の切り替え日との整合も設計します

フェーズ②:会社設立

定款・登記・設立後の基本届出は「会社設立の費用と流れ」のとおりです。法人成り特有の注意は1つ——法人口座の開設には時間がかかるため、登記完了後すぐ申し込み、③以降の資金移動に間に合わせることです。

フェーズ③:資産・負債の引き継ぎ——税金が絡む山場

個人の事業用資産を法人へ移す方法は3つあり、税務上の扱いが異なります。

方法 内容 主な税務論点
売買(譲渡) 個人が法人へ時価で売る 個人側: 譲渡所得等/消費税(課税事業者なら課税売上)
賃貸 個人所有のまま法人に貸す 個人側: 不動産所得等として申告継続
現物出資 資産を出資して資本金にする 評価・手続きが重く、実務では少数派

実務の定番は「少額の動産はまとめて売買、不動産は賃貸、現金は出資」です。注意点を3つ挙げます。

  • 時価で取引する: 帳簿価額や恣意的な安値・高値での売買は、低額譲渡・受贈益・役員給与の認定リスクがあります。中古市場価格・未償却残高を参考に、根拠を残して価格を決めます
  • 在庫の消費税: 個人が課税事業者の場合、法人への在庫売却は課税売上です。在庫が多い業種は、在庫が薄い時期に切り替えるだけで消費税負担が変わります
  • 借入金の引き継ぎ: 個人名義の事業借入は、金融機関との協議のうえ法人への債務引受・借り換えを行います。無断で「会社が返済を肩代わり」する形は、経理も契約もねじれるため、必ず金融機関を巻き込んでください

フェーズ④:契約・名義の切り替え——漏れが事故になる所

チェックリスト形式で挙げます。

  • 事務所・店舗の賃貸借契約: 法人契約への切り替え(大家の承諾・保証会社の再審査)
  • 許認可: 多くの許認可は個人から法人へ引き継げず、法人として取り直しです(建設業・飲食店営業・古物商等)。空白期間が出ないよう、取得スケジュールを最優先で確認してください
  • リース契約・車両(名義変更・保険の契約者変更)
  • 取引先への法人成りの案内(請求名義・振込口座の変更通知。インボイス登録番号の変更も明記)
  • 電気・通信・サブスクリプション等の名義
  • 従業員の雇用契約の巻き直し(個人事業主との契約→法人との契約)と社会保険・労働保険の切り替え
  • 屋号口座の整理・クレジットカードの法人カード切り替え

税理士からのひとこと(監査目線):法人成りの失敗で多いのは、税務よりも「お金の流れの切り替え漏れ」です。典型例は、切替後も売上の一部が個人口座に入金され続け、経理上は法人の売上・入金は個人——という混線状態。放置すると、法人の売上計上漏れ・個人への貸付・消費税の二重計上など、あらゆる論点が絡まります。対策はシンプルで、切替日を境に「個人口座への入金は取引先別にゼロにしていく」管理表を作ること。最後の1社が切り替わるまで、毎月チェックしてください。もう一つ、切替日前後の売上の帰属(どこまでが個人の売上か)は、請求・納品の日付で明確に区切り、議事録・覚書で残しておくと、後の調査で揉めません。

モデルスケジュール:7月1日切替の場合

時期 やること
3月 設計(切替日・資本金・役員報酬・消費税)。許認可の取り直し要件を確認
4月 会社設立の手続き開始(定款・登記申請)
5月 登記完了・法人口座申込み。許認可の法人申請。取引先への案内文準備
6月 資産の売買契約・賃貸借の法人契約切り替え。請求名義の変更通知を発送
7月1日 切替日。以後の売上・仕入れ・給与はすべて法人で
7〜9月 設立後90日の届出(青色・社保・役員報酬決定)。入金の混線チェック開始
7月末 個人の廃業届等の提出
翌年2〜3月 個人の最後の確定申告(1〜6月の事業所得+7月以降の給与所得)

切替日を月初に置くと、請求・給与・社会保険の区切りがすべて綺麗になり、経理の混乱が最小になります。

フェーズ⑤:個人事業の締め

  • 廃業届(個人事業の開業・廃業等届出書): 廃業から1か月以内に税務署へ
  • 青色申告の取りやめ届出書消費税の事業廃止届出書(課税事業者だった場合)・都道府県への事業廃止の届出
  • 最後の確定申告: 法人成りした年は、「1月〜廃業日までの事業所得」+「設立後の役員報酬(給与所得)」が混在する申告になります。事業税の見込控除や減価償却の月割りなど、通常年と違う論点が多いため、この年だけは専門家のレビューを推奨します
  • 予定納税がある場合は減額申請を検討(事業所得がなくなるため)

フェーズ⑥:法人の立ち上げ——設立後90日の定番セット

  • 税務署: 法人設立届出書・青色申告承認申請(3か月以内)・給与支払事務所の開設届・源泉の納期特例
  • 自治体への設立届、年金事務所の新規適用(社長1人でも強制加入
  • **役員報酬の決定(3か月以内)**と給与計算・源泉徴収の体制づくり
  • 会計ソフトの法人用設定(期首残高に引き継いだ資産・負債を正しく設定)

よくある質問(FAQ)

Q. 個人事業と法人を並行して続けてもよいですか? A. 可能ですが、事業内容が同じだと「所得の付け替え」を疑われやすく、経費の区分も複雑になります。同一事業の並行は原則避け、移すなら全部移すのが安全です(別事業を個人に残す設計はあり得ます)。

Q. 屋号は会社名に引き継げますか? A. 引き継げます(商号として使えるかは類似商号・商標の確認を)。「屋号+株式会社」の形で継続性を見せるのは、取引先への案内上も有効です。

Q. 個人時代の売掛金・買掛金はどうなりますか? A. 切替日までの取引分は個人に帰属し、個人で回収・支払いします。法人への債権譲渡も可能ですが、対抗要件等の手続きが必要になるため、実務では「個人分は個人で回収し切る」のがシンプルです。

Q. 小規模企業共済や倒産防止共済はどうなりますか? A. 小規模企業共済は一定の手続きで法人役員として継続できる場合があります。倒産防止共済(経営セーフティ共済)も承継の取り扱いがあります。解約してしまう前に、必ず継続・承継の可否を中小機構に確認してください。

Q. 法人成りした年の社会保険はどうなりますか? A. 設立して役員報酬の支給が始まった時点で健康保険・厚生年金に加入します(国保・国民年金から切り替え)。切替月の保険料の重複・空白がないよう、資格取得日と国保の脱退手続きの日付を揃えてください。

まとめ

  • 法人成りは6フェーズ・約3か月。設立は全体の3割で、本丸は引き継ぎと切り替え
  • 資産の引き継ぎは「動産は時価で売買・不動産は賃貸」が定番。在庫の消費税借入の債務引受は事前設計を
  • 許認可は取り直しが原則。空白期間が出ないようスケジュールの最優先で確認
  • 個人側は廃業届と混合型の最後の確定申告。法人側は設立後90日の届出セット(青色・社保・役員報酬)
  • 切替後の最大の事故は入金の混線。取引先別の切り替え管理表で最後の1社まで追い切る

法人成りの実行支援は Iroae税理士事務所へ

Iroae税理士事務所では、切替時期の損得試算(消費税・社会保険・所得税の年単位比較)から、資産引き継ぎの価格設計、届出一式、最後の確定申告、法人の経理立ち上げまで、法人成りの全工程を伴走支援しています。「設立はしたが、引き継ぎが手つかず」という途中からのご相談も歓迎です。

※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。資産の引き継ぎ・許認可・社会保険の取り扱いは個別事情により異なります。実行にあたっては、必ず各所管庁の最新情報をご確認いただくか、専門家にご相談ください。

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