賃上げ促進税制【2026年版】給与を増やすと税額が減る仕組みと中小企業の使い方を税理士が解説

賃上げ促進税制は、従業員の給与を前年より増やした会社が、増やした額の一部を法人税から直接控除できる制度です。「人件費を増やすと、その一部が税金で戻ってくる」——人を大切にする経営と節税が一致する、中小企業にとって貴重な制度です。

COLUMN法人の節税

賃上げ促進税制は、従業員の給与を前年より増やした会社が、増やした額の一部を法人税から直接控除できる制度です。「人件費を増やすと、その一部が税金で戻ってくる」——人を大切にする経営と節税が一致する、中小企業にとって貴重な制度です。

中小企業向けでは、給与の増加額に対して最大45%という高い控除率が用意され、さらに赤字で使い切れなくても5年間繰り越せる仕組みが整備されています。本記事では、仕組み・控除率・要件・実務の注意点を解説します(適用期限のある時限措置のため、最新の要件は必ず確認してください)。

仕組み:給与の「増加額」に控除率を掛ける

この制度は、給与の総額ではなく、前年からの増加額に対して控除を計算します。

税額控除額 = 雇用者給与等支給額の増加額 × 控除率

たとえば全従業員の給与総額が前年3,000万円→当期3,300万円に増えた場合、増加額300万円に控除率を掛けた金額が、法人税額から直接引かれます。損金(経費)が増えるのではなく、税額そのものが減る点が、減価償却などの「損金を増やす」節税とは決定的に違います。

中小企業向けの控除率(上乗せで最大45%)

中小企業者等向けの制度は、基本の控除に「上乗せ要件」を満たすと控除率が積み上がる構造です。

要件 控除率
基本:雇用者給与等支給額が前年比 +1.5%以上 増加額の 15%
上乗せ:前年比 +2.5%以上 +15%(合計30%)
上乗せ:教育訓練費が一定以上増加 +10%
上乗せ:くるみん・えるぼし等の認定(両立支援・女性活躍) +5%
最大 増加額の45%

たとえば給与増加額300万円で最大45%が適用されれば、135万円が法人税額から直接控除されます。控除額には法人税額の20%という上限があります。

【重要】赤字でも使える「繰越控除」

従来、税額控除は黒字(法人税が出ている)でなければ効果がありませんでした。しかし中小企業向けの賃上げ促進税制には、当期に控除しきれなかった分を5年間繰り越せる仕組みが設けられています。

これにより、赤字や利益の少ない年に賃上げをしても、その控除枠を将来の黒字の年に持ち越して使えるようになりました。「黒字のときしか賃上げ減税を受けられない」という制約が大きく緩和され、成長途上の中小企業でも賃上げのインセンティブが働く設計になっています。

対象になる「給与」の範囲

  • 雇用者給与等支給額:国内の従業員(パート・アルバイト含む)に支払う給与・賞与
  • 役員とその親族など特殊関係者への給与は除外されます(役員報酬は対象外)
  • したがって、社長の報酬を増やしても適用されません。従業員の給与を増やすことが要件です

ここは誤解の多い点です。「賃上げ減税があるから役員報酬を増やそう」は対象外。あくまで従業員への分配を促す制度です。

税理士からのひとこと(監査目線):賃上げ促進税制は「結果として使える」ことが多い制度です。多くの中小企業は、採用・定着のために自然と給与を増やしており、要件(前年比+1.5%)を知らないまま満たしているケースが少なくありません。問題は、適用を申告で取り忘れることです。この制度は申告書に明細を添付して初めて適用されるため、「賃上げはしたが控除を申請していなかった」という取りこぼしが実際に起きます。私たちは決算時に必ず前年との給与総額を比較し、要件を満たしていれば控除を適用します。さらに、教育訓練費や両立支援認定で控除率が上乗せされるため、「あと少しで上乗せ要件に届く」場合は、研修の実施や認定取得を提案することもあります。賃上げは経営判断ですが、それに減税がついてくることを知っているかどうかで、手残りが変わります。

数値例:従業員給与を年300万円増やした会社

従業員5人・前年の給与総額3,000万円の中小法人が、当期に昇給・賞与増で総額3,300万円(+10%、増加額300万円)にしたケースです。

  • 基本要件(+1.5%以上)→ 15%
  • 上乗せ(+2.5%以上)→ +15%(合計30%)
  • 教育訓練費を一定以上増やした → +10%(合計40%)
  • くるみん認定を取得済み → +5%(合計45%

控除額 = 増加額300万円 × 45% = 135万円

この135万円が法人税額から直接引かれます(法人税額の20%が上限)。仮に当期の法人税額が500万円なら上限100万円まで控除でき、残る35万円は翌期以降5年間に繰り越せます。「従業員に300万円多く分配したら、税金が100万円以上戻ってきた」——人への投資と節税が一致する好例です。

他の節税策との違い:分配が報われる制度

多くの節税策は「会社にお金を残す」方向ですが、賃上げ促進税制は逆に「従業員に分配したことを税で報いる」制度です。決算賞与(「決算賞与の要件と注意点」参照)と組み合わせると、利益が出た年に従業員へ賞与で還元し、その増加分が賃上げ促進税制の控除対象にもなる——という二重のメリットが生まれます(要件・計算の重複には注意が必要です)。利益を「会社に残す」か「人に分配する」かは経営判断ですが、後者にも明確な税メリットがあることを知っておく価値があります。

適用の実務:3つのチェックポイント

  1. 前年と当期の給与総額を比較: 雇用者給与等支給額(役員・親族分を除く)の増加率を計算し、+1.5%以上か確認
  2. 上乗せ要件の該当を確認: +2.5%・教育訓練費の増加・くるみん等の認定
  3. 申告書に明細を添付: 適用は申告手続きが前提。取り忘れに注意

上乗せ要件を狙う:あと一歩で控除率を上げる

基本の15%から、上乗せ要件を満たすと控除率が積み上がります。決算前に「あと少しで届く」なら、要件を取りにいく価値があります。

  • 給与増加率 +2.5%以上(+15%): 賞与の増額・昇給で給与総額の増加率を引き上げる
  • 教育訓練費の増加(+10%): 研修・セミナー・外部講師への費用を一定以上増やす。年度末に予定していた研修を前倒しすることで要件を満たせる場合がある
  • 両立支援・女性活躍の認定(+5%): くるみん・えるぼし等の認定を取得する

特に教育訓練費は、「どうせやる研修」を計画的に実施することで、控除率を15%→25%、さらに認定で30%へと積み増せます。賃上げの規模が同じでも、これらの要件を満たすかどうかで、戻ってくる税額が倍近く変わります。決算前に「自社が今どの控除率に届いているか」を確認し、あと一歩なら要件を取りにいくのが賢い使い方です。

よくある質問(FAQ)

Q. 役員報酬を増やしても対象になりますか? A. なりません。役員およびその親族等への給与は対象外です。対象は従業員(使用人)への給与です。

Q. 従業員が1人増えて給与総額が増えた場合も対象ですか? A. 雇用者給与等支給額の増加として対象になり得ます。新規採用による増加も既存従業員の昇給による増加も、総額が前年比で増えていれば判定の対象です。

Q. 赤字なので法人税が出ません。意味はありますか? A. 中小企業向けには5年間の繰越控除があるため、当期に控除しきれなくても将来の黒字年に持ち越せます。赤字でも賃上げをした年は、繰越枠の確保のために適用を検討してください。

Q. パート・アルバイトの給与も含まれますか? A. 含まれます。雇用者給与等支給額は、正社員に限らず国内の従業員への給与が対象です(役員・親族を除く)。

Q. 教育訓練費とは何が対象ですか? A. 従業員の研修・セミナー受講料、外部講師への謝金、教材費など、一定の教育訓練のための費用です。要件を満たす増加で控除率が上乗せされるため、研修費の記録を整理しておくと有利です。

まとめ

  • 賃上げ促進税制は給与の前年比増加額の一部を法人税額から直接控除する制度(損金増ではなく税額の純減)
  • 中小企業向けは上乗せで**最大45%**の控除率。控除上限は法人税額の20%
  • 5年間の繰越控除があり、赤字・利益の少ない年の賃上げでも将来使える
  • 対象は従業員への給与。役員・親族への給与は対象外
  • 最大のリスクは申告での取り忘れ。前年比較と明細添付を毎期忘れずに

賃上げ促進税制の適用は Iroae税理士事務所へ

Iroae税理士事務所では、給与総額の前年比較と適用判定、上乗せ要件(教育訓練費・認定)の活用提案、繰越控除の管理、申告書への明細添付まで、賃上げ減税の取りこぼしを防ぐご支援をしています。「賃上げはしたが控除を申請していない」という取りこぼしを、決算の前に防ぎましょう。

※本記事は2026年時点の制度をもとに、税理士の監修のもと作成しています。賃上げ促進税制は適用期限のある時限措置で、控除率・要件は税制改正により変わります。適用にあたっては、必ず中小企業庁・国税庁の最新情報をご確認いただくか、税理士にご相談ください。

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