「個人事業を始めたものの、帳簿の付け方がわからない」「無料で使えるテンプレートを探しているけれど、どれを選べばいいのか不安」——独立したばかりの方から、こうしたご相談を毎月いただきます。
確かに、市販の会計ソフトを買わなくても、エクセルや無料テンプレートを使えば帳簿を作ること自体は可能です。ただし、2023年10月のインボイス制度開始、そして電子帳簿保存法による電子取引データの電子保存(2022年1月施行・宥恕措置を経て2024年1月から本格適用)によって、「テンプレートに手入力すれば終わり」とは言えない時代になりました。記帳の方法を誤ると、青色申告特別控除を満額受けられなかったり、税務調査で帳簿が認められなかったりする恐れもあります。
この記事では、税理士の視点から、個人事業主が使える帳簿テンプレートの入手先、各帳簿の役割と書き方、そして2026年現在の制度に沿った注意点を、できるだけ具体的に整理しました。テンプレート運用で十分なケースと、クラウド会計ソフトへ移行したほうがよいケースの判断基準もお伝えします。
そもそも個人事業主に必要な帳簿とは
「帳簿」とひと口に言っても、その種類は申告方法によって異なります。まずは、自分がどこまで帳簿を備える必要があるのかを把握しておきましょう。
白色申告と青色申告で必要な帳簿が変わる
個人事業主の確定申告には、大きく「白色申告」と「青色申告」があります。
- 白色申告:収入金額・必要経費を記載した「収支内訳」を把握できる程度の、簡易な帳簿(法定帳簿)が必要です。日々の合計額をまとめて記載する方法も認められています。
- 青色申告(簡易簿記・10万円控除):現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳などの「簡易帳簿」を備えます。
- 青色申告(複式簿記・最大65万円控除):仕訳帳と総勘定元帳を中心とした「正規の簿記の原則(複式簿記)」による記帳が必要です。
白色申告でも帳簿の作成・保存は義務です。「白色だから帳簿はいらない」という認識は誤りですので、注意してください。
主な帳簿の種類と役割
複式簿記で青色申告を行う場合に登場する代表的な帳簿は、次のとおりです。テンプレートを探すときも、この役割を理解しておくと選びやすくなります。
| 帳簿名 | 役割 | 簿記の区分 |
|---|---|---|
| 仕訳帳 | すべての取引を発生順に「借方・貸方」で記録する | 主要簿(複式簿記) |
| 総勘定元帳 | 仕訳を勘定科目ごとに集計する | 主要簿(複式簿記) |
| 現金出納帳 | 現金の入出金を記録する | 補助簿(簡易簿記でも使用) |
| 預金出納帳 | 預金口座の入出金を記録する | 補助簿 |
| 売掛帳 | 掛け売り(後払いの売上)を取引先ごとに管理する | 補助簿 |
| 買掛帳 | 掛け仕入(後払いの仕入)を取引先ごとに管理する | 補助簿 |
| 経費帳 | 勘定科目ごとに経費を集計する | 補助簿 |
| 固定資産台帳 | 10万円以上の備品など、減価償却資産を管理する | 補助簿 |
仕訳帳と総勘定元帳が「主要簿」、それ以外が「補助簿」という位置づけです。最大65万円の青色申告特別控除を狙うなら、主要簿(複式簿記)の作成が前提になります。
帳簿テンプレートの無料入手先
ここからは、実際に無料で入手できる帳簿テンプレートの入手先を、信頼性の高いものから順にご紹介します。
国税庁・自治体の様式
国税庁は、確定申告に必要な「収支内訳」や「青色申告決算」の様式(PDF)を公式サイトで公開しています。記帳のひな型そのものというより、最終的な提出書類のフォーマットを確認する目的で活用できます。様式は毎年見直されるため、必ず最新年分を国税庁ホームページで確認してください。
また、青色申告会や商工会議所でも、会員向けに記帳指導や帳簿様式の提供を行っている場合があります。地域によって内容が異なるため、お近くの団体に問い合わせてみるとよいでしょう。
会計ソフト各社・テンプレート配布サイト
freee会計・マネーフォワードクラウド・弥生といったクラウド会計ソフトの提供企業は、エクセル形式の帳簿テンプレートや記帳の解説記事を無料で公開していることが多くあります。自社サービスへの導線を兼ねた配布ですが、内容は実務に即しており、書き方の参考として有用です。
そのほか、Microsoftの「Officeテンプレート」や、各種テンプレート配布サイトでも現金出納帳・売上帳などのエクセル様式が手に入ります。ただし配布元によって品質や勘定科目の設定はまちまちですので、自分の業種・取引内容に合うかを必ず確認してから使いましょう。
エクセルで自作する場合のポイント
シンプルな現金商売であれば、エクセルで自作したテンプレートでも十分に対応できます。最低限、次の項目を列として用意しておくと、後で集計しやすくなります。
- 日付
- 摘要(取引内容・取引先)
- 勘定科目
- 金額(売上・経費・現金残高など、帳簿の種類に応じた列)
- 消費税の区分(課税・非課税・対象外、インボイスの登録番号の有無)
特に2023年10月のインボイス制度開始以降は、消費税の区分を記録する列を最初から設けておくことを強くおすすめします。後から追加すると、過去分の入力をやり直す手間が発生しがちです。
【2026年最重要】テンプレート利用時に必ず押さえる3つの制度
ここが、2019年当時の「テンプレートをダウンロードして使えば便利」という感覚と、2026年現在で最も大きく変わった点です。エクセルや紙のテンプレートで記帳する場合でも、以下の制度への対応は避けて通れません。
1. 電子帳簿保存法:電子取引データは「データのまま」保存が義務
電子帳簿保存法のうち「電子取引」のデータ保存は、2022年1月施行・2023年末までの宥恕措置を経て、2024年1月から本格適用となりました。原則として、これは会計ソフトを使っているかどうかに関係なく、すべての事業者(個人事業主を含む)が対象です。
ポイントは、帳簿をエクセルや紙で作っていても、電子取引データはプリントアウトした紙だけで保存するのは原則認められないという点です。具体的には、次のようなデータが電子取引にあたります。
- メールに添付されて届いた請求書・領収書のPDF
- ネット通販(Amazon・楽天など)の購入時にダウンロードする領収書
- クレジットカードや決済サービスのWeb明細
これらは、原則として「データのまま」一定のルールに従って保存する必要があります。保存にあたっては、取引年月日・取引金額・取引先で検索できるようにする「検索要件」や、改ざん防止の措置などが求められます。
ただし、相当の理由があり、税務調査の際にデータのダウンロードや出力に応じられる場合には、検索要件などが緩和される猶予措置も設けられています。要件の細部は事業規模によっても異なるため、対応に不安がある場合は早めに税理士へご相談ください。最新の詳細は国税庁の電子帳簿保存法に関するページで確認できます。
2. インボイス制度:帳簿の記載要件と保存
2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)も、帳簿の付け方に影響します。
あなたが課税事業者で適格請求書発行事業者の登録を受けている方で、仕入や経費で支払った消費税を差し引く「仕入税額控除」を受ける場合、原則として、適格請求書(インボイス)の保存と、一定事項を記載した帳簿の保存が必要です。帳簿には、取引先名・取引年月日・取引内容・金額などを記録します。なお、課税事業者であっても登録番号の交付を受けていなければ適格請求書は発行できず、両者はイコールではありません。
一方、免税事業者の方は、現時点で消費税の申告自体が不要なため、インボイスのための帳簿要件を満たす必要はありません。ただし、自分が課税事業者なのか免税事業者なのか、登録番号を取得しているかどうかで必要な対応が変わります。判断に迷う場合は、税理士に確認することをおすすめします。
3. 青色申告特別控除:65万円控除には電子申告か電子帳簿保存が必須
青色申告特別控除の金額は、記帳方法と申告方法の組み合わせで決まります。2020年分以降、次のように整理されています。
| 控除額 | 必要な記帳 | 申告・保存の条件 |
|---|---|---|
| 65万円 | 複式簿記 | e-Taxによる電子申告 または 電子帳簿保存(優良な電子帳簿)のいずれかを満たす |
| 55万円 | 複式簿記 | 上記を満たさない(紙提出など) |
| 10万円 | 簡易簿記 | 条件なし(簡易な帳簿) |
つまり、複式簿記で帳簿を付けていても、紙で確定申告書を提出すると控除は55万円にとどまります。満額の65万円控除を受けるには、e-Taxでの電子申告などが事実上の前提になっている、と考えてください。エクセルのテンプレートで複式簿記の帳簿を作ったうえで、申告だけは電子で行う、という運用も可能です。
テンプレート運用の限界とクラウド会計ソフトへの移行判断
無料テンプレートは初期費用がかからず、取引件数が少ないうちは有効な選択肢です。一方で、事業が育ってくると、手作業による記帳の負担やミスのリスクが無視できなくなります。テンプレートで続けるか、クラウド会計ソフトへ移行するかの判断材料を整理しました。
テンプレート(エクセル・紙)が向いているケース
- 取引件数が少なく、現金商売が中心である
- 白色申告、または青色申告でも10万円控除を想定している
- 電子取引(メール添付の請求書など)がほとんど発生しない
クラウド会計ソフトを検討したほうがよいケース
- 取引件数が多く、複式簿記での集計を手作業で行うのが負担になっている
- 65万円の青色申告特別控除を確実に受けたい(電子申告との連携がしやすい)
- インボイスの登録番号管理や消費税計算を自動化したい
- 電子帳簿保存法の検索要件・改ざん防止に、ソフト側の機能で対応したい
freee会計・マネーフォワードクラウド・弥生会計オンラインといったクラウド会計ソフトは、銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込み、仕訳を提案してくれます。電子帳簿保存法やインボイス制度への対応機能も備わっているため、制度対応の手間を大きく減らせるのが利点です。料金やプランはサービスや時期によって変わるため、各社の公式サイトで最新の内容をご確認ください。
税理士の実務感覚としては、インボイス制度と電子帳簿保存法が始まった今、複式簿記で青色申告を目指す方は、最初からクラウド会計ソフトを使うほうが、結果的に手間も誤りも少なくなるケースが増えています。テンプレートは「まず帳簿の構造を理解する」段階では役立ちますが、本格運用の段階では会計ソフトの活用を検討する価値が十分にあります。
まとめ
個人事業主の帳簿テンプレートについて、2026年現在の制度を踏まえて整理しました。要点は次のとおりです。
- 必要な帳簿は申告方法で変わる。白色申告でも帳簿の作成・保存は義務。
- 無料テンプレートは国税庁の様式や会計ソフト各社の配布物から入手でき、エクセル自作も可能。ただし消費税の区分を記録できる形にしておく。
- メール添付の請求書などの電子取引データは「データのまま」保存が原則義務。テンプレートで帳簿を作る場合でも対応が必要。
- インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者の登録を受けた課税事業者が仕入税額控除を受けるには、帳簿とインボイスの保存が求められる。
- 65万円の青色申告特別控除には、複式簿記に加えてe-Taxでの電子申告、または優良な電子帳簿の保存のいずれかが必要。これを満たさず紙提出などの場合は55万円。
- 取引件数が増えたり、制度対応を効率化したい場合は、クラウド会計ソフトへの移行が有力な選択肢。
帳簿は、正しく付ければ節税と経営判断の強い味方になりますが、制度を誤解したまま運用すると、後の申告で思わぬ不利益につながることもあります。本記事の内容は2026年時点の一般的な情報です。税率・控除額・各制度の要件は改正される可能性があるため、実際の手続きにあたっては国税庁の最新情報をご確認ください。
帳簿付け・確定申告のご相談は Iroae税理士事務所へ
「自分の場合はテンプレートで足りるのか、会計ソフトを入れるべきか」「電子帳簿保存法やインボイスにどこまで対応すればいいのか」——帳簿の付け方は、業種や取引内容、課税事業者かどうかによって最適解が変わります。
Iroae税理士事務所(旧 カスタマーグロース合同会社)では、これから記帳を始める個人事業主の方に向けて、帳簿の付け方の指導から、青色申告・インボイス・電子帳簿保存法への対応、クラウド会計ソフトの導入支援まで、一貫してサポートしております。「最初の年だけ税理士に依頼し、翌年以降の記帳の型を整える」といったご相談も歓迎です。
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