映像制作会社の経理の難しさは、**「案件ごとに損益がバラバラで、外注(フリーランス)が多く、納品と入金の時期がずれる」**という業界構造そのものにあります。
押さえるべき論点は4つです。①案件別の原価管理(どの案件で儲かったかが分かる経理)、②期またぎ案件の仕掛品処理、③フリーランスへの支払い(外注費の区分・源泉徴収・インボイス)、④機材・広告収入の税務。本記事では、この4点を実務の型として解説します。
論点1:案件別原価管理——「会社全体では黒字」で満足しない
映像制作は案件単位の受注産業です。経理も案件(プロジェクト)単位で組みます。
- すべての案件に案件番号を振り、売上・外注費・出演料・ロケ費・機材レンタル・編集費を案件番号に紐づけて記帳します(会計ソフトの補助科目・タグ機能で実現できます)
- 社内スタッフの人件費も、主要案件には工数ベースで配賦できると、実態の粗利が見えます
- 月次で「案件別粗利一覧」を出し、赤字案件の構造(見積りの甘さ・修正対応の無償化・ロケ延長)を特定する——これが映像会社の経営会議の中心資料です
どんぶり勘定の会社ほど「忙しいのに利益が残らない」状態に陥ります。原因はほぼ、特定の赤字案件と無償の修正対応に隠れています。
論点2:期またぎ案件——売上と原価のタイミングを揃える
売上の計上は検収基準が基本
納品・検収完了の日に売上を計上します。入金日でも、請求日でもありません。期末に「納品済みだが請求が翌期」の案件は当期の売上、「制作中」の案件は売上未計上です。
制作中案件の原価は「仕掛品」へ
期末時点で制作中の案件にかかった外注費・ロケ費等は、**仕掛品(未成制作支出金)**として資産計上し、完成・納品の期に売上と対応させて原価化します。
ここを処理しないと、「原価だけ当期・売上は翌期」という期ずれで利益が歪み、税務調査でも指摘されます。逆に、納品済み案件の原価を仕掛品に残す処理は利益の水増し(融資対策の粉飾)と見なされます。案件台帳の進行状況(制作中・納品済み・検収済み)と決算の仕掛品リストが一致していることが守りの要です。
論点3:フリーランスへの支払い——区分・源泉・インボイスの三点セット
カメラマン・編集者・ディレクター・ナレーター等、個人事業主への外注が多いのがこの業界です。確認は3層あります。
① 外注費か給与か
常駐に近い形・指揮命令下での作業は給与認定のリスクがあります(判定軸は指揮命令・時間拘束・道具の負担・代替性)。給与認定されると源泉漏れ・消費税控除否認・社保遡及の三重苦になるため、契約(業務委託)と実態(成果物単位の発注)を揃えることが第一です。
② 源泉徴収が必要な報酬か
個人への支払いには、所得税法で源泉徴収の対象となる報酬・料金の類型(原稿料、デザイン料、出演料・芸能人の役務提供報酬、ナレーション等の放送出演に関する報酬など)があります。映像制作の現場では、出演者・ナレーター・脚本・デザイン系の支払いは源泉対象になることが多い一方、純粋な技術作業の扱いなど判定が分かれる支払いもあります。支払い類型ごとに「源泉の要否一覧」を作って統一運用し、迷うものは個別に確認してください。源泉漏れは支払者(自社)が追徴される論点です(不納付加算税・延滞税つき)。
③ インボイス
免税のフリーランスへの支払いは、仕入税額控除が**経過措置(2026年10月から70%)**の対象です。外注比率の高い映像会社では、この縮小のコスト影響が大きく、①外注先の登録状況の台帳管理、②免税先比率を織り込んだ見積り単価の見直し——が必要です(「法人のインボイス対応」参照)。
論点4:機材と収入源の税務
機材の減価償却
- カメラ・レンズ・照明・編集機(PC)は固定資産として償却(カメラは耐用年数5年等、資産の区分による)
- 30万円未満の機材は少額減価償却資産の特例(年300万円まで即時損金)が使え、機材更新の多い映像会社では主力の制度です
- レンタル・リースとの使い分けは、稼働率と陳腐化のスピードで判断します
広告収入・配信収入
- 自社チャンネルの広告収入(海外プラットフォームからの入金)は、国外事業者との取引としての消費税判定(不課税・免税の整理)が必要です。「入金額=税込売上」と機械的に処理しないこと
- 企業案件(タイアップ)は通常の国内課税売上です。収入源ごとに消費税の区分を分けて記帳します
著作権・納品物の権利
買い取り(著作権譲渡)かライセンスかで、契約・請求の建て付けが変わります。海外への権利許諾は源泉・消費税の国際課税の論点が生じ得るため、海外案件は契約段階で税務確認を入れてください。
税理士からのひとこと(監査目線):映像会社の決算で必ず確認するのは「期末日の案件一覧」です。制作中・納品待ち・検収待ち・請求済み——各案件のステータスと金額が1枚になっていれば、売上の期ずれも仕掛品の漏れも一目で潰せます。逆にこの一覧がない会社は、決算のたびに記憶で精算することになり、毎年どこかがずれます。もう一つは見積りと実績の突合。映像の赤字案件は「受注時から赤字」ではなく「修正対応で赤字化」するのが典型です。見積書に修正回数の条件を明記し、超過分を追加請求できる契約の型を作ることは、税務ではなく経営の話ですが、利益体質への効果は節税策より大きい——これが多くの制作会社を見てきた実感です。
案件別損益の管理表サンプル
最低限この形があれば、月次の経営会議が変わります(単位: 万円)。
| 案件番号 | 案件名 | 状況 | 受注額 | 外注費 | 直接経費 | 社内工数(時間) | 粗利 | 粗利率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 26-014 | A社ブランド動画 | 納品済 | 180 | 65 | 18 | 120 | 97 | 54% |
| 26-015 | B社採用動画 | 制作中 | 90 | 40 | 12 | 95 | 38 | 42% |
| 26-016 | C社ウェブCM(修正4回目) | 制作中 | 150 | 88 | 25 | 210 | 37 | 25% |
26-016のような「受注額は大きいのに粗利率が崩れている案件」が一目で見つかり、原因(修正回数・外注の積み増し)まで追えます。期末にはこの表の「制作中」行がそのまま仕掛品のリストになり、決算と経営管理が同じ台帳で回ります。
よくある質問(FAQ)
Q. 機材を買った年に全額経費にできますか? A. 30万円未満なら少額特例で即時損金(年300万円まで)。30万円以上は耐用年数での償却です。決算前の機材更新は、この区分を意識して発注額を設計すると効果的です。
Q. ロケの交通費・宿泊費はどう処理しますか? A. 案件原価として案件番号に紐づけます。スタッフの日当は出張旅費規程を整備すれば非課税で支給できます(「出張旅費規程で節税する方法」参照)。出演者・外注者の交通費負担は、報酬との区分(源泉の対象範囲)に注意してください。
Q. 納品後に入金が長い(60日超)取引が多く、資金繰りが苦しいです。 A. 制作業は外注費の支払いが入金より先行する構造です。着手金(前受金)の導入、フリーランスへの支払いサイトの整理、運転資金枠の確保(当座貸越・ファクタリングの比較)を、案件規模が大きくなる前に設計してください。
Q. 自社コンテンツ(チャンネル運営)と受託制作で経理を分けるべきですか? A. 部門別(セグメント別)に分けることを強く推奨します。収益構造・消費税の区分・投資判断がまったく違うため、混ざった損益では意思決定ができません。
Q. 海外のフリーランスに編集を外注しています。注意点は? A. 源泉徴収(役務の内容・租税条約による判定)と消費税(国外取引の判定)の2つの確認が必要です。国内の外注と同じ処理をしないでください。
Q. 制作途中で案件が中止になった場合の処理は? A. 中止が確定した時点で、仕掛品に計上していた原価を損失(または売上原価)へ振り替えます。キャンセル料を請求できる契約なら、その収益と対応させます。中止条項と着手金の設計は、税務以前に契約段階での自衛策です。
Q. 出演者との契約で気をつける税務は? A. 個人への出演料は源泉徴収の対象になるのが原則です。事務所(法人)経由か個人直か、消費税・インボイスの扱いも変わるため、発注時に「相手が法人か個人か」を必ず確認し、支払調書の作成まで含めて管理してください。
まとめ
- 経理の軸は案件番号への紐づけ。案件別粗利一覧が経営と税務の両方の土台
- 期またぎは「検収基準の売上+仕掛品の原価」で対応を揃える。案件台帳と決算の一致が守りの要
- フリーランス対応は「外注区分・源泉の要否・インボイス経過措置」の三点セットで台帳管理
- 機材は30万円未満の少額特例が主力。広告収入は国外取引の消費税判定を忘れずに
- 赤字案件の正体は修正対応。**契約の型(修正条件の明記)**が最大の利益改善策
映像制作会社の経理体制は Iroae税理士事務所へ
Iroae税理士事務所では、案件別原価管理の仕組みづくり(会計ソフトのタグ設計)、源泉の要否一覧の整備、フリーランス外注のインボイス・区分管理、決算時の仕掛品整理まで、制作業の実務に即した経理体制をご支援しています。「忙しいのに残らない」の原因を、案件別の数字で特定するところから始めましょう。
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※本記事は2026年時点の一般的な情報をもとに、税理士の監修のもと作成しています。源泉徴収の要否・消費税の内外判定は支払いの内容・契約により異なります。実務にあたっては、必ず専門家にご相談ください。