「会計データをパソコンのソフトで管理しているが、もしパソコンが壊れたら帳簿はどうなるのか」「クラウド会計は便利そうだが、インターネット上にデータを置くのはかえって危険ではないか」——会計ソフトの選定を進めるなかで、こうした不安を抱える方は少なくありません。
会計データは、事業の根幹であると同時に、税務調査や決算でも参照する重要な記録です。万一消失すれば、再作成には膨大な手間がかかり、最悪の場合は取引内容を証明できなくなります。だからこそ「どちらの方式がデータを安全に守れるのか」は、ソフト選びの本質的なテーマです。
さらに2026年現在は、電子帳簿保存法の改正とインボイス制度という2つの制度対応が、会計ソフト選定の判断軸として無視できなくなっています。本記事では、データバックアップの仕組みを正しく整理したうえで、クラウド会計とインストール型会計ソフトを多角的に比較します。
クラウド会計とインストール型会計ソフトの基本的な違い
まず両者の構造的な違いを押さえておきます。
インストール型(オンプレミス型)会計ソフトは、自社のパソコンにソフトウェアをインストールし、データもそのパソコン(またはローカルのサーバー)に保存する方式です。代表例として弥生会計(デスクトップ版)などがあります。インターネットに接続していなくても動作する点が特徴です。
クラウド会計は、ソフトウェアもデータもインターネット上のサーバーに置き、ブラウザ経由で利用する方式です。freee会計、マネーフォワード クラウド会計、弥生会計オンラインなどが該当します。パソコンを買い替えてもデータはサーバー側に残り、複数人・複数拠点から同じデータにアクセスできます。
この「データをどこに置くか」という違いが、後述するバックアップやデータ保全の考え方を大きく左右します。
データバックアップの観点で比較する
インストール型は自己責任でのバックアップが前提
インストール型の場合、データを保存しているパソコンが故障・紛失・盗難に遭えば、帳簿データも一緒に失われます。これを防ぐには、利用者自身が定期的に外付けハードディスクやUSBメモリ、別媒体へバックアップを取る運用が欠かせません。
しかし実務では、「バックアップを取り忘れていた」「バックアップ用の媒体も同じ場所に置いていて、火災や水害で一緒に失われた」といったケースが起こり得ます。バックアップの保管場所をどう分散するか、世代管理(複数時点のデータを残す)をどうするかまで考え始めると、想像以上に手間がかかるのが実情です。
クラウド会計はサーバー側で多重に保全される
一方、クラウド会計では、データの保全をサービス提供事業者側が担います。一般的に大手クラウド会計サービスは、次のような仕組みでデータを守っています(具体的な構成は各社・各時点で異なるため、詳細は各社の公式情報をご確認ください)。
- データセンターでの分散保管:データを複数のサーバー・複数の保存領域に分けて保持し、一部の機器が故障してもデータが失われないよう冗長化しています。データを分割して複数台に分散して保持する手法(シャーディングなど)が用いられることもあります。
- 暗号化:通信経路(SSL/TLS)と保存データの両方で暗号化を施し、第三者が内容を読み取れないようにしています。
- 定期的な自動バックアップ:利用者が意識しなくても、サービス側で継続的にバックアップが取得されます。
つまりクラウド会計では、一企業が単独で構築するのは難しいレベルのデータ保全体制を、利用料の範囲で利用できることになります。「自分でバックアップを取り忘れて帳簿を失う」というリスクを大幅に下げられる点は、クラウド会計の大きな利点です。
ただし、これは「データが絶対に消えない」ことを保証するものではありません。提供事業者側の障害やサービス終了、操作ミスによるデータ削除などの可能性はゼロではないため、重要なデータは定期的にエクスポート(バックアップ出力)して手元にも控えておく運用が安全です。
クラウド会計の弱点と現実的な評価
クラウド会計はインターネット接続が前提のため、通信障害やサービス側の一時的な不具合が起きるとアクセスできないという弱点があります。決算期や月次締めの繁忙期に一時的に使えなくなると、業務に影響が出る可能性は否定できません。
もっとも、これはインターネットインフラ全体に共通する事象であり、復旧後はデータそのものが失われているわけではない点とのバランスで判断する必要があります。オフライン環境でも確実に作業したい、外部にデータを預けたくないといった事情がある場合は、インストール型が選択肢になります。
2026年の必須論点:制度対応で比較する
データ保全と並んで、いまの会計ソフト選びで欠かせないのが制度対応です。ここを見落とすと、ソフトを導入した後で対応漏れが発覚しかねません。
電子帳簿保存法(電子取引データの電子保存義務化)
電子帳簿保存法は近年改正が重ねられ、電子取引(メール添付のPDF請求書、ECサイトの領収書、Web上で受け取った契約書など)でやり取りした書類は、電子データのまま保存することが原則として必要になっています。原則的な対応として、保存したデータについて改ざん防止の措置(タイムスタンプの付与や訂正・削除の履歴が残るシステムの利用など、真実性の確保)と、日付・金額・取引先で検索できる状態(検索要件)を満たすことが求められます。
この点で、多くのクラウド会計サービスは電子帳簿保存法に対応した保存機能を備えており、要件を満たす形で電子データを保存・検索できるよう設計されています。インストール型でも対応製品はありますが、運用設計を自社で整える負担は相対的に大きくなりがちです。データ保存という本記事のテーマと直結する論点であり、選定時には電子帳簿保存法への対応状況を必ず確認してください。
なお、要件の詳細や経過措置の取り扱いは改正によって変わります。最新かつ正確な内容は、必ず国税庁の公式情報や顧問税理士でご確認ください。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)
2023年10月に開始したインボイス制度により、仕入税額控除を受けるためには原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要になりました。発行側は登録番号や適用税率、消費税額などの要件を満たした請求書を発行し、受領側はそれを適切に保存・処理する必要があります。
現在の主要なクラウド会計・請求書サービスは、適格請求書の発行や、受け取ったインボイスの登録番号・税率ごとの集計に対応した機能を順次拡充しています。消費税の課税事業者にとっては、インボイス対応の有無が日々の経理負担を大きく左右するため、これも重要な比較ポイントです。
主要クラウド会計ソフトの特徴
2026年現在、中小企業・個人事業主に広く利用されている代表的なクラウド会計サービスを整理します。料金やプラン内容は改定されることがあるため、契約前に各社公式サイトで最新の情報をご確認ください。
- freee会計:簿記の知識が浅い方でも入力しやすい設計が特徴で、銀行口座やクレジットカードと連携した自動仕訳に強みがあります。請求書発行や経費精算など、バックオフィス全般を一体的に扱いたい事業者に向いています。
- マネーフォワード クラウド会計:金融機関やサービスとの連携範囲が広く、給与・請求書・経費などのシリーズ製品と組み合わせて使える点が特徴です。会計の基本を押さえつつ周辺業務まで効率化したい事業者に適しています。
- 弥生会計 オンライン:会計ソフトとして長年の実績がある弥生のクラウド版で、デスクトップ版から移行する方や、サポート体制を重視する方に選ばれています。
いずれも、銀行API連携による取引データの自動取得、AIによる仕訳の自動提案、電子帳簿保存法・インボイス制度への対応など、初出記事を執筆した2019年当時から機能が大きく進化しています。「クラウド会計=手入力が大変」というイメージは、現在では実態と異なります。
クラウド会計とインストール型会計ソフトの比較表
| 比較項目 | クラウド会計 | インストール型会計ソフト |
|---|---|---|
| データの保存場所 | 事業者のサーバー(インターネット上) | 自社のパソコン・ローカルサーバー |
| バックアップ | 事業者側で自動・多重に実施 | 利用者が自分で実施 |
| 障害時の挙動 | 通信障害時はアクセス不可。データ自体は保全 | パソコン故障でデータ消失の恐れ |
| 制度対応(電帳法・インボイス) | 機能として対応・更新されやすい | 製品・運用次第。自社対応の負担が相対的に大きい |
| 複数人・複数拠点での利用 | 同時アクセスしやすい | 基本的に端末単位 |
| 費用の形態 | 月額・年額の利用料が中心 | 買い切り+更新費用が中心 |
| 法改正への追従 | アップデートで自動反映されやすい | 自分で更新版を導入する必要がある場合がある |
どちらが優れているかは一律には決まりません。インターネット環境が安定し、制度対応とバックアップの手間を減らしたい事業者にはクラウド会計、オフラインでの利用や外部にデータを置かない運用を重視する事業者にはインストール型が、それぞれ適しています。
まとめ
会計ソフトのデータバックアップは、かつてインストール型を使う事業者にとって「自分で取り忘れたら帳簿を失う」という重い負担でした。クラウド会計の普及により、この保全をサービス側に任せられるようになり、データ消失リスクは大きく下げられます。ただし「絶対に消えない」わけではないため、重要データの定期エクスポートは併用するのが安全です。
加えて2026年の選定では、電子帳簿保存法とインボイス制度への対応が避けて通れません。これらに継続的に対応していく観点では、アップデートで制度変更を取り込みやすいクラウド会計に一日の長があります。一方で、自社の通信環境や運用方針によってはインストール型が適する場面もあり、最終的には事業の実態に即して判断することが大切です。
なお、本記事で触れた電子帳簿保存法・インボイス制度の要件や、消費税・各種期限に関する具体的な取り扱いは、改正や個別事情によって変わります。正確な最新情報は国税庁の公式情報や顧問税理士でご確認ください。
会計ソフト選びと制度対応は Iroae税理士事務所にご相談ください
「クラウド会計に移行すべきか」「電子帳簿保存法やインボイス制度に自社の運用が対応できているか」——会計ソフトの選定は、単なるツール選びにとどまらず、日々の経理体制や税務対応の土台づくりに直結します。
Iroae税理士事務所では、事業規模や業務の実態をうかがったうえで、クラウド会計の導入可否や移行時の注意点、制度対応の整え方まで、実務に即してご提案しています。会計ソフトの乗り換えや経理のデジタル化をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。